※死ネタです(乱菊独白)





どうして・・・なんでアンタはそんなところで倒れてるのよ
さっきまで目の前にいたじゃない
いつもいつもアンタは何にも言わないであたしを置いていく。





初めて彼に出会ったのは、空腹に倒れ空を仰ぎ見ながら生を諦めようとしていた時だった。突然、今まで見たことのない色が視界に入ってきた。きらきらしたそいつは、食べ物を差し出しながら名を名乗った。その名は、まさに彼の色を指すものだった。

彼は私を自分の住家に引き入れ、生きる術を教えてくれた。彼は私に誕生日をくれた。彼は何も言わなくても一緒にいてくれた。彼は私に『生きる』ということを教えてくれた。−−−彼に出会った瞬間から私の世界は色づいたものになったのだ。

彼はたまに何も告げず家を空けることがあった。最初はどこにいったのかと探し回ったが見つからず、家で待っていると、後に彼はひょっこり帰ってきた。どこへ行っていたのかと問い詰めても、彼は苦く笑うだけで求める答えを返してはくれなかった。帰ってくる度に彼の手には食糧や衣類があり、衣食を確保してきたのが見て取れた。一緒に暮らしているのに、どうして自分も連れていってくれないのか、そう伝えると彼は自分が居ない間、家を守ってほしいと困った顔で告げるのだ。こんな顔をさせたかったわけじゃない。ただ、一緒に居たいという思いからだった。彼の顔を見ていると、甘んじて彼の優しさを受け入れるしかなかった。−−−−−この時、自分の思いを素直に伝えていれば、未来は変わったのだろうか。



冬のある日、またふらりと居なくなった彼の霊圧を感じ外へ走った。
彼は見たこともない死霸装を見に纏っていた。振り返った彼は死霸装を翻しながら、死神になる、−−−そして私が泣かないですむようにすると言う。そう言った彼の頬には誰のものとも知れぬ血に濡れていた。その姿に、自分は泣いてなんかいない、何があったのだとか胸の中に抱いた言葉は音になることなく、口から出たのは吐息だけだった。そして彼は振り返ることなく、そのまま白銀の世界へと紛れていった。私は追いかけることが出来なかった。そして彼は帰って来なかった。−−−−−この日から、私の世界のから銀色は姿を消したのだ。



彼の最後の言葉を頼りに統学院に入り彼を追ったが、彼と話す機会はなく、彼は一年という異例な早さで卒業を迎えてしまい、彼と話せないまま悪戯に時が過ぎていった。

やっと護挺十三隊に入り、対等に話ができるかと思えば、彼は私を役職で呼び、その口で私の名前をつむいでくれることはなかった。時の経過の中で、彼と私の間には壁ができてしまったのだろう、仕方がない。そう自分に言い聞かせる一方で、彼が目の前にいるという事実に安堵している自分がいた。それを悟られたくなくて、軽く言葉を交わすだけで彼との対峙を終える。だが、擦れ違った後は名残惜しくて、彼の背中を目で追いかけていた。−−−手の届く距離にいるのに、彼の背中が遠い・・・。



旅禍による瀞霊挺侵入、藍染らによる反逆、瀞霊挺内が混乱する中護挺十三隊は双極へと召集された。その目的は反逆者らの捕縛、伝えられた反逆者の名の中に彼の名前があった。信じたくないと思う一方で、どこかでやはりと心の隅で受け入れてしまっていた。彼が罪を犯したというのなら、私がこの手で捕まえる。自分に言い聞かせ、瞬歩で双極へと急ぐ。

そこで見たのは、想像を超える惨状だった。惨状の中、彼は藍染の傍観者に徹していた。そんな彼の後をとるのは簡単だった。いや、むしろ自ら背中を差し出した様にも感じる。刃を突き付けても彼は抵抗せず、元上司に呑気に自分の現状を報告している。そんな彼に苛立ちを覚える。何をへらへらと笑っているのだ、私がどんな覚悟でここに来たかも知らないで−−−−−
そんな膠着状態は長くは続かなかった。突如現れた大虚が放った反膜によって、私と彼のいる空間は完全に遮断されてしまった。まただ、また遠くへ行ってしまう、そう思うより先に彼の口が動いた。それは私に宛てた別れと謝罪の言葉であった。言葉とともに紡がれたのは私の名前−−−−−そう、彼はたった一言で、私の心を簡単に掻き乱していくのだ。こちらの思いも知らずに・・・・



狡い、狡い、狡い。私の欲しい答えは何一つくれないくせに、私に答えを求めないくせに−−−−−−−−


彼は知らないのだ、私が泣かない世界には彼が必要だということを。彼が私の世界なのだということを。



信じていたのに、どうして・・・その答えを知るものは彼しかいない。


会わなければ



会わなければ



会って問い詰めて、彼の真意が知りたかった。



再び彼と対峙した時、やっと真意を聞ける機会を得た。しかし、いざ口を開いて出てきた言葉は彼を信頼していた部下をなぜ裏切ったのかという問いだった。そう、信じていたのは自分。なぜ自分を裏切ったのか、その答えを知ることが怖くて、彼を慕っていた元部下を引き合いに出したのだった。そんな私の心の葛藤は、彼にたやすく見破られてしまっていた。

彼が近づいて来る。彼は私の手の触れる所まで来た。私は彼の言葉を待っていた。だが、彼の言葉をそれ以上聞くことは叶わなかった。彼の刃に貫かれ、私の世界は暗転した−−−−−



彼に殺されたのだと死を覚悟していたにも関わらず、私は目を醒ました。だが、体は鉛のように重たかった。感覚的に白伏によって、霊圧の根源を潰されたことが分かる。


どうして殺さなかったの、あなたに殺されるならそれでもいいと思ったのに。


どうして私を生かしたの


いったい私をどうしたいの

彼にもう一度、



もう一度−−−−−−−−


やっと見つけた彼の魂の燭はすでに消えかかり、もはや言葉を紡ぐ力さえも残ってはいなかった。



彼が本当に消えてしまう、彼がこの世からいなくなってしまう。現実を受け入れきれず、彼に縋り付き泣くことしかできない。



なにも言わないで逃げるなんて狡い



置いて行かないで



私も一緒に−−−−−−−




彼の体が霊子となり、少しずつ消えてゆく。彼を逝かせたくなくて、霊子を体でかき集める。だが、彼は私の体をすり抜けて、私の目の前から消えてしまった。


彼が居なくなっても、瞼の中には彼の姿しか浮かばなかった。



形見も残してくれない彼の非情さに



前へと進む後押しをしてくれる彼の優しさに



涙はとまらず、そしてようやく自分の気持ちに気がついた。



彼が居なくなってようやく気がついた



(−−−好きだったんだわ・・・)

まだ涙で、前を向けそうにはない








瞼の裏から
(彼の姿が消えない)








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