「海音寺さん」

店に入り、海音寺に声を掛ける。
すると、海音寺が立ち上がりながら、困ったように笑う。

「よっ。……悪い、原田。厄介者がおるんじゃ……」

「なぁに、一希くん。俊二くんとのデートなのに、彼女呼んだん?」

「は?」

「違うわ。原田は後輩。俺は、コイツと打ち合わせしとっただけじゃ」

「一希くんのいけず〜。で?そっちの美人サンは?」

巧の方は瑞垣であると直ぐに気が付いた。
一方の瑞垣は、全く気付いていない様子。

「原田、自己紹介せぇ」

「はぁ……新田東中一年の原田です。お久しぶりです、瑞垣さん」

「お久しぶり?俺、会った事ある?」

「そりゃもう、強烈に」

巧は、拳をにぎりしめて耐える。
思い出すな、平常心を保て、と言い聞かせながら……

「瑞垣、コイツが姫さんじゃ」

「は?」

「原田、フルネームと部活を教えてやれ」

「原田巧、野球部でマネージャーやってます。この前はピッチャーも兼ねましたが」

「……うそや、ありえへんて。あの秀吾相手に奪三振やで?まさかそれが女なんて……」

「男が女の制服着て堂々とファーストフードに入りますか?」

「……………」


巧は、何時もの事だ、と特に気にしてはいない様子。
海音寺は、瑞垣の反応の良さに笑いを堪えている。
瑞垣はというと……

口をあんぐりと開け、しばらく動かなかった。


「ああもう、秀吾が知ったらどーしましょ」

「は?別に門脇くんが知っても、大丈夫じゃろ」

放心していた瑞垣が頭を抱えて呻く。
巧と談笑していた海音寺が気が付き、言葉を返した。

「そうやない。アイツ、原田を倒すゆうて、毎日毎日素振りばっかやっちょる」

「いいじゃないですか。損はしませんよ」

「損て……なんや薄情やな」

「あ、忘れてた」

本気で困っている瑞垣を無視し、巧が鞄を漁る。

「海音寺さん、これ、返します」




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