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3
「怖かった。ボールも、豪のミットも、相手も、マウンドも。全部が怖くて、さ……」
「巧、無理せんで……一回、野球から離れてみぃ?」
「えっ?」
「普通の女の子になって……なにもかも忘れるんじゃ。それで、野球がやりたくなったら、また戻ればええよ」
「……それも、いいかもな」
少し、離れてみようか。
過去を決別するために。
「繭、ありがとう」
「ええんよ。うちが困ってる時、助けてくれたけん」
「俺、新田に来てよかった」
心から、そう思えた。
「ただいま」
「お帰り……って、巧!あんた、どうしたのその格好!!」
朝はジャージで出ていった娘が、滅多に履かないスカート、しかもミニを履いて帰って来た。
そのことに、真紀子は驚きを隠せなかった。
「繭がくれた」
「なんで?今日、練習じゃったろ?」
「雨降られた。たまたま繭に会ったら、家に誘われて、風呂借りて、これ着せられた」
洗濯しといて、と渡された鞄の中には、買った覚えのないユニフォーム。
「ちょっと、巧、アンタ投げたん?!」
「少しだけ。でも、二度とないよ」
「でも、ユニフォーム……」
「先輩が用意してくれただけ。明日返しに行く」
話しながら、ちっとも目を合わせようとしない。
小学生の時は、しっかり目を合わせて、マウンドに上がったと話してくれたのに……
「巧、なんかあったん?変じゃよ?」
「母さんには関係ない」
「っアンタを心配して言ってるんじゃよ!!それを、関係ないで済まさんで!!」
巧が、まだ少し赤い目で真紀子を見る。
そして、感情のない声で言った。
「俺、しばらく部活出ない事にしたから」
「えっ?」
真紀子の声に反応する事もなく、巧は自室へと戻った
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