「怖かった。ボールも、豪のミットも、相手も、マウンドも。全部が怖くて、さ……」

「巧、無理せんで……一回、野球から離れてみぃ?」

「えっ?」

「普通の女の子になって……なにもかも忘れるんじゃ。それで、野球がやりたくなったら、また戻ればええよ」

「……それも、いいかもな」

少し、離れてみようか。
過去を決別するために。

「繭、ありがとう」

「ええんよ。うちが困ってる時、助けてくれたけん」

「俺、新田に来てよかった」

心から、そう思えた。




「ただいま」

「お帰り……って、巧!あんた、どうしたのその格好!!」

朝はジャージで出ていった娘が、滅多に履かないスカート、しかもミニを履いて帰って来た。
そのことに、真紀子は驚きを隠せなかった。

「繭がくれた」

「なんで?今日、練習じゃったろ?」

「雨降られた。たまたま繭に会ったら、家に誘われて、風呂借りて、これ着せられた」

洗濯しといて、と渡された鞄の中には、買った覚えのないユニフォーム。

「ちょっと、巧、アンタ投げたん?!」

「少しだけ。でも、二度とないよ」

「でも、ユニフォーム……」

「先輩が用意してくれただけ。明日返しに行く」

話しながら、ちっとも目を合わせようとしない。
小学生の時は、しっかり目を合わせて、マウンドに上がったと話してくれたのに……

「巧、なんかあったん?変じゃよ?」

「母さんには関係ない」

「っアンタを心配して言ってるんじゃよ!!それを、関係ないで済まさんで!!」

巧が、まだ少し赤い目で真紀子を見る。
そして、感情のない声で言った。

「俺、しばらく部活出ない事にしたから」

「えっ?」

真紀子の声に反応する事もなく、巧は自室へと戻った





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