少し、息抜きを
傘なんて無いから、ずぶ濡れだ。
でも、屋根の下に入ろうなど思わない。
一年前、いや、小学生の時なら、肩を冷やすから、と必ず傘を差しているだろう。
今は違う。
今日、やっと諦めがついた。
野球をやめよう。
どうせ、女だ。
例え、どんなに速い球を投げても、結局は変わらない。
眼の奥と胸が、ズキリと痛む。
泣くな、泣くな。
堪えろ。
泣いたって、誰も助けてはくれないのだから。
「巧?」
知ってる女の子の声。
振り返ると、クラスメートの矢島繭が立っていた。
「……繭」
「うわ、どうしたん?」
「ちょっと、ね」
「風邪引くけん、家来る?」
「……行く」
繭は、初めて出来た女友達。
野球しかやって来なかった俺の、唯一の純粋な友達。
繭といると、落ち着く。
今日の事を、話してみようか。
繭は、なんと言うのだろうか。