親睦試合


「高槻さん、頑張って下さい」

試合前の高槻に声を掛ける。

「おう」

「大きいの打たれても、崩れないで下さい」

「それは分からん」

高槻は、マウンドを見つめた。
今日は調子が良い。
だが、横手には門脇がいる。
あの人と戦って、勝てるだろうか。
打たれても、構わない。
だけど、それで崩れてしまうのは嫌だ。

高槻は、ボールを握りしめた。


巧は、高槻の背を見る。
今日は調子が良いようだ。
でも、緊張している。

恐らく、ホームランを打たれたら、崩れる。
フライでも危ないかもしれない。
そうしたら、どうする?
誰がマウンドに立ち、豪に向かって投げるのだ?

巧の中で、答は出ていた。

「監督」

「お、原田か。なんじゃ?」

「ユニフォームって、ありますか?」

「お前、投げれるんか?」

「もし、高槻さんが崩れたら、高槻さんが落ち着くまでの間、投げます」

「……そこの紙袋の中に、お前のが入ってる」

「えっ?」

「海音寺が頼んだんじゃ」

「海音寺さんが?」

「野球やっとる原田の方がえぇ、ってな」

巧は、紙袋を抱きしめた。
また、野球が出来る、マウンドに立てる。
それだけなのに、酷く興奮する。

「よかったな、原田」

野々村が声を掛ける。
自分も、野球を諦めなければならない人間だから、原田の気持ちは分かる。
いや、違うな。
原田は、諦めていない。
だからこそ、心からの言葉を掛ける。

「頑張り、原田」

「はい」


ユニフォームを着る
髪を結って、キャップの中に入れる
軽いストレッチをする

小学生のときは、無意識にやっていた行動。
今は、確認するように、丁寧に、行う。

グッ、とベルトをきつく締める。
深呼吸を一つ



野球が、巧の元へと返ってきた。

「……よし」



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