夜の村からはどこからともなく切ないメロディーが聞こえる。AM2:00の音はまるで細かな雨粒が降り注ぐみたいにやさしく村を包む。
釣竿をひっさげて海に向かって歩きながら、柔らかい音に耳を傾けた。昼間では楽し気に会話を交わす村人たちも、夜ばかりはこの世界には自分しかいないみたいにぷらぷら歩く。だから夜更かしはやめられない。

しっかりした固さの地面もいつの間にか茶色い土と白い砂がまじりあい、波音が大きくなるのにしたがって白の割合が増えていく。砂を踏む感覚を靴裏で楽しみながら海に潜む魚の影をさがす。
今夜こそは特大のカジキを釣ってやる。たくあんとの釣り勝負は三勝五敗、今回は白星をいただこうじゃないか。

さざ波たつ深い青をじっと見つめながら歩いているとコツンと靴先になにかがあたる。目を下にむけると手紙入りの古めかしい小瓶があった。上体を曲げて拾い上げると、潮の匂いに混じってふわっと嗅いだことのないかおりがした。きっとこの小瓶はとおくから来たんだろう。
瓶が纏う白い砂のドレスを払ってきゅっとコルクを抜き、手紙を取り出す。
そこには日本語とは思えない記号がうっすらと書き連ねられていた。逆さにしてみても月光に透かしてみてもさっぱりだ。しばらく解読を試みてみたが喫茶ハトの巣のマスター以上に読めない。
諦めて瓶の中に戻し、再び栓をしめて空に向かって放り投げた。
どこかの誰かがなにかを伝えるために海に託された手紙が、それを理解できる人の元へ届くといい。

「あ」

海水がたゆたう中に大きな魚の影が浮かんできたと思ったら、丁度真上から落ちてきた瓶に驚いて海の底に引っ込んでしまった。

「あ〜ぁ…」

ぷかぷか離れてゆく小瓶と魚の影。
まぁいい。夜は長いし気長に待とう。


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