(♀)

マニキュアが嫌いだ。
爪からはみ出るたびに心臓がぎゅうっと押しつぶされそうになる。綺麗に塗られていた山吹色のパレットの上、重ね塗りをした瞬間その美しい調和は崩れる。
自分のことを曲がりなりにも容量がいいと思い込んでいた私は、この時ばかりは自分の不器用さをほとほと感じさせられる。世の中の女の子たちがこんな試練を潜り抜けおしゃれに努めているのだと思うといつも感心してしまう。
洗礼されたスカートも、上品な革張りのヒールも、絹のように艶やかな髪も、その全てはお金があれば簡単に手に入るけれど、美しい爪はそうはいかない。
マニキュアを塗り、失敗し、世界が滅びてしまえばいいと自棄を起こす私を苦笑しながら見つめるクロロにはきっとこの苦労がわかっていないのだ。

「なら塗らなきゃいいじゃないか」
「そんなわけにはいかないよ。明日はせっかくのデートなのに」
「でも、ディナーに行くだけだろう?」
「だからこそ、よ」

たとえ公園にピクニックに行こうが、高校生のデートみたいにホラー映画を見に行こうが、私は今みたいに必死にマニキュアを塗っていることだろう。

「女っていうのはよくわからないな」

頬杖をつきながら悪戦苦闘する私を見て首を傾げるクロロに、「わかってたまるもんですか」と唇を持ち上げた。
女が着飾る理由なんて一つしかないのに、それを分からないなんて馬鹿な男だ。



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