(♀)

「おかえり、ヒソカ。今日は早かったね」

背後に気配を感じ、後ろを振り返る。そこにはいつものようにうっそりとした笑みを浮かべたヒソカが立っていた。

「残念なことに、弱い奴らばかりだったんだ◆」

吐き出された言葉とは裏腹に、小さく肩を竦めた彼に落胆の色は見られない。ヒソカを満足させられる人なんて、そうそういない。

「お風呂に入ってきたら?生臭いわよ」
「だろうね、髪まで真っ赤になっちゃったから◆」

彼の頭に手を伸ばす。ぬめりとした感触。白かった私の手が黒くなる。

「ねぇヒソカ、私の手は何色になっているの?」
「赤◆」
「あか、」

部屋の中に響く時計の音、血の生臭い匂い、それらは分かるのに、私の世界は完璧なものではない。

「色の溢れる世界とはどんなものなのかしらね、」

そうぽつりと呟いた私の頬を撫ぜるヒソカの手は白と黒だ。髪も、目も、白と黒。私の世界には色がない。私の網膜は色を感じない。それに不自由を感じたことはないけれど、こうして色を欲してしまうのは、きっとヒソカのせいなのだろう。

「貴方の瞳は何色なの、ヒソカ」

瞳に手を寄せる。彼の瞳を覗き込んでみても、そこには白と黒の模様があるだけで、私の望んでいたものは得られない。きっと彼が私の血で染まった時でさえ、私はそれが血であると理解することはない。

「ほんとうに、神様は意地悪ね」

貴方のもっとも美しい姿が見られないなんて、私は前世で一体どんな業を犯したと言うのかしら。



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