遠のく瞳


久しぶりに月を見た。いつもジョナサンは見せてくれないから。
月はあかるい。闇を照らすそれは、きっと太陽よりも。
わたしは夜がすきだ。月のあかりも、静けさも、窓越しから聞こえてくる木々のざわめきも。それはわたしにもっとも近いもので、太陽のような笑みを見せるジョナサンには遠いもの。
もっとも、わたしがこの部屋で見る彼の顔は、とろけてしまいそうな恍惚とした表情と、外界を望むわたしを困ったように見つめる顔の方が多いのだけれど。

「なにを考えている?」

月に向けていた視線をついっと反対側に向ける。

「…別になんでも、」

くだらないことよ、と呟く。彼は薄く笑った。きっと彼にはわかっているのだ、わたしの思考も、望みも、なにもかも。

「今夜は番犬がいないが、なにかあったのか?」
「さぁ、わたしにはなんとも」

もしかしたら自室で勉強でもしているのかもしれないし、今日はどこか別の場所に泊まりにいってるのかもしれない。
ククッと忍び笑いをする彼に訝しげな視線をおくる。

「…なに」
「あいつがお前をほうっておくはずがないと思ってな」
「……」

きっとわたしは苦い顔をしている。彼、ディオの言うとおりだ。わたしが認めたくないだけで。
ジョナサンがわたしをほうっておくはずない。きっと本人の意思に関係なくつい眠り込んでしまっているとかで、たまたまわたしの部屋に来れないだけだろう。そうでもないと彼のことだ、きっと今夜もいつものようにわたしの部屋に訪れていたに決まっている。
番犬のように。わたしの意識が途切れるまでずっと。

「あいつがいないからお前は月が見れたんだ」
「…言われなくても知っているわ」

口元に愉悦の色を浮かべながら、彼は目を細める。

「囚われの姫も大変だな」

口内に苦々しいなにかが広がった気がした。



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