熟れた唇


「あぁ、起きていたんだね」

開かれた扉から、笑顔を浮かべたジョナサンが入ってくる。
深海を思わせるブルーの石をあしらったサスペンダー、真っ白でパリッとしたシャツ、瞳と同じ少しグリーンがかったズボン。
彼はいつも清潔だ。薄暗い部屋に入ってくる前、光に照らされたジョナサンはきっともっと美しいに違いない。光を受けきらきらと輝く瞳は、見る人を魅了してしまうだろう。

「?どうしたんだい、じぃっと僕の顔を見て」

近くで見ればよりわかる。瞳を縁取る長い睫毛も、きめ細かく、それでいて健康そうなみずみずしい肌も、ぷっくりと熟れた、いやに妖艶さを漂わす真っ赤な唇も。

「きれい、ね」

わたしとは大違いだ。

彼の全身を見つめるわたしの視線の意味に気づいたのか、ジョナサンは小さな笑みを漏らす。頬を薄い桃色に染めて。

「ナマエの方こそ、きれい、だ」

そう言ってベッドに寝転がるしかないわたしのすぐ隣に立ったジョナサンは、するりとわたしの服を脱がせる。肌触りのいいシルクのワンピースが肌をこすり、するすると脱がされていく。

「ほら、きれい。僕よりずぅっと」

露わになった身体を見て、ジョナサンは恍惚とした表情で言う。わたしの身体をじぃっと見つめるジョナサンに従って、わたしもついっと視線をおろす。

薄暗い部屋に浮かび上がるような真っ白な肌は不健康さを際立たせるし、本来手や足がはえている断面はつるつるしている。取り付けられたような小さな二つの乳房と、繁殖機能を果たすための女性器だけがわたしを女だと証明する。それさえも、わたしが女だと知らしめるものさえ作り物のように感じるのだ。
なんて、醜い。
ジョナサンはこれを美しい、と言うのだ。まるでそれが真実かのように。熱に浮かされた子どもみたいな表情で。この欠陥だらけの身体を。

ジョナサンは本来手がはえているであろう断面にちゅっと唇を落とした。あつい息が肌にかかる。わたしという存在を確かめるように、彼の手がするすると肌に這わされる。
耳を、肩を、乳房を、腰を。
為す術のないわたしは、ジョナサンのその行為を甘んじて受け入れる。

「僕のナマエ、」

はぁ、とあつい吐息とともに吐き出された言葉が部屋を満たす。
わたしはぼんやりと天井を眺める。子どものような単純さで。



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