取り戻した者
「んあっ、?」
鈍い痛みを感じ、安らかな眠りの世界に旅立っていた思考が叩き起こされる。
「うっ、あ」
がつんがつんと小刻みに体が固い床に叩きつけられる。な、なに…っ?あまりの眠さに二度寝の体勢に入っていた私もさすがに危機感を感じパッと目を開く。
目の前には少々幼さの残る顔立ちの少年が苦しげな、しかし口元には淫靡な笑みを浮かべながら私の腰を掴み…、
「っ、え、?」
突然の出来事に口からは言葉にならない声しか出なかった。黒にも見える紫色の髪を乱しながらがつがつと私に腰を叩きつけてくるこの少年は一体だれだ。起きたら美少年とドッキング中でしたって、もしかしてこれ夢…?
しかし体中を支配する痛みはやけにリアルだった。どこもかしこも鈍い痛みを訴えかけてくるようで、少年が乱暴に私の体を揺するたびに呻きにも似た声が喉から零れ落ちる。上下に動く私の体を固定するように腰を掴んでいる少年の指は皮膚に食い込むほど強く、ずきずきとした痛みに眉をよせた。
「あぁ、起きたんですか天女サマ」
「あっ、」
ぐりっと円をかくようにかき混ぜられた中の動きに目を見開きぱくぱくと魚のように口を開く。快楽を上回る痛みに全身痙攣したように小刻みに震えていた。未だかつて味わったことのない苦痛。呼吸がうまくできない。
「ははっ、そんなにイイんですか?」
「い、あっ、」
「…腰を振るしか脳のない淫乱め、なにが天女だ、」
吐き捨てるように呟かれた言葉が呪詛のように私の耳にはいってくる。腰?天女?意味がわからない。
ぐぐっと腰を掴んだ指に力が加えられた。
「あぁっ!!」
痛い。全身がおそろしいまでに。拷問とも取れる行いに耐えられる精神などない私は、目の前の少年の瞳に浮かぶ憎悪の色に恐怖を感じていた。このままでは更に恐ろしい目に遭うのは一目瞭然だった。
「や、だ、」
逃げなきゃ。このままじゃ殺されるかもしれない。
震える体に鞭を打ち、少年から逃れるように床を這う。腕を必死に伸ばしながら。
「どこに行く気だ…?」
「ひぃっ、」
底冷えする声とともに私の体はぐいっと少年のほうに引き寄せられた。体を抱え込むように捕らえられる。顎に手をかけられ、強制的に少年の顔と向き合わされた。冷笑を浮かべた少年の瞳はおそろしいほどに冷たい。
「逃がすわけがないだろう?」
顎にかけられた指に力が込められる。逃がさないとでも言いたげに。
「天女サマ」
甘さを含んだ声でそう言った少年は、しかし瞳には残忍な色が浮かんでいた。