100000hit企画 | ナノ



ミルキから電話がかかってきたのは、ゴンと一緒に川で捕った魚を食っている最中だった。

「なんか鳴ってるけどいいの?」
「…あー、いいんだよ別に。どうせミルキだし」
「でももう何十分も鳴りっぱなしだよ?」
「………」

「なにか大事な用なんじゃない?」と串に指した魚を頬張っているゴンの純粋な疑問に口を閉ざした。
携帯画面に『ミルキ』の文字が出たのを見た瞬間から面倒事だろうとは思っていた。あいつからわざわざ電話をかけてくるなんて、なにかあったんじゃと勘繰ってしまうくらい珍しいことなのだ。

「出てあげたら?」
「…あぁ」

ゴンの言葉に促され、しぶしぶ携帯を耳に持っていく。

「んだよブタちゃん、俺忙しいんだけ、」
「いいから帰ってこいッ!!今すぐ!!」
「な、なんかあったのかよ…」

未だかつて聞いたことがないってくらい焦ったミルキの声が俺の鼓膜を震わせる。ただ事ではない空気を感じ、思わず裏返った声が出た。

「イル兄が、イル兄がヤバいかもしれない…ッ!」
「…え、」

今なお携帯から何かを言っているようだったが、俺の脳はその言葉を処理してはくれなかった。
目の前が真っ白になった気がした。
気づくと俺は、背後から俺の名を呼ぶゴンを放って走り出していた。





「イ、イル兄は…っ!?」

俺が帰ってくることを知っていたかのように玄関先に佇んでいたゴトーに掴みかかるように尋ねかける。いつもは穏やかな顔をしているゴトーの顔色は暗い。それになにか嫌な予感がして、俺は叫ぶように同じ言葉を繰り返した。

「イル兄は…!?」
「イルミさまはご自身のお部屋におられます。しかし、」
「…っ、」
「お待ちください、キルアさまッ!」

目を伏せ、なにかを言おうとしていたゴトーを振り切り、イルミの部屋へと走り出す。
なにも聞きたくなかった。俺の頭の中には重症をおってベッドに臥せっている兄貴の姿が浮かんで見えて、そんなわけないと急いで頭を振る。
イル兄が誰かに負ける姿なんて想像できなかった。ましてや死んでしまうなんて、考えたこともない。俺の中の兄貴は怖くて、感情がないんじゃないかってくらい無表情で、けどそれ以上に強いのだ。死ぬなんて、そんなことあるはずない。

「おい、キルア…、」
「ミ、ミルキ、」

いざイル兄の部屋に入ろうと扉の前にたどり着いた時、ふいにミルキに呼び止められた。
ミルキは神妙な顔をしながら俺を見つめている。

「覚悟していけよ」とミルキが言う。俺はその言葉に頷くこともできず、汗が滲んだ手のひらでドアノブを掴んだ。


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