100000hit企画 | ナノ



なまえは息を潜めて暗い夜道を歩いていた。絶をつかって自身の気配を最大限に消す。寝転んだ猫の横を通り過ぎるが、猫はなまえの存在に気づかずにふぁあと大きな欠伸を溢すだけだった。

「(まいた…かな…?)」

後ろを振り返り、誰もついてきていないことを確認したなまえはホッとひと息つく。やっと心休める時を過ごすことができるのかと思うと口角がつり上がってくるが、なまえは気を引き締めるかのようにキッと表情を引き締めた。空には月がぽっかりと浮かんでおり、少し離れた大通りからは人の賑わいを感じる。これから今夜泊まるホテルを探さねばならないと思うと気が重いが、やっと自由な時間を過ごせるのだと自身を慰める。一日中逃げ回っていたというのに体はまったく疲れていないのは、あのカミサマとやらがつけた「最強設定」故か。まったくどこの夢小説だとあの男をぶちのめしたくなるが相手はあんなちゃらんぽらんでも一応は"神"と言われる存在、最強設定をつけられた私でも手も足も出ないに違いない。

「なんで私が…」

空に浮かぶ月を見上げながら深いため息をつく。今日、いやこの世界にきてからため息をつく回数が格段に上がった気がするがきっと気のせいじゃないはずだ。はては友人からはよく死んだ魚の目をしてるとからかわれ、まだぴちぴちの十代(笑うところ)だというのになまえから放たれる雰囲気は疲れ果てたサラリーマンのようだった。
なんで私がこんな目に…。
なまえは数年前に見たきりのあの美しい男を思い出し、またもや盛大なため息を吐き出した。

「っ、」

とたんするりとした禍々しいオーラが自身の体を絡めとる。油断していた…っ!なまえはぎりりと唇を噛み締めた。

「そんなに唇を噛み締めたら血が出ちゃうじゃないか◆」

「ヒソカ…、」

自身に巻きついたバンジーガムのせいで身動きのとれないなまえを見たヒソカがべろりと舌舐めずりをする。その心底悦に浸った表情のヒソカに冷え冷えとした軽蔑の眼差しを向けるなまえは、それによって目の前の男の下半身のある一部がぐぐぐと立ち上がるのを見て嫌悪からか顔を歪めた。紙越しであれなんでこんな変態が好きだったのか分からないとなまえは心底思った。

「あぁ、いい、いいよなまえ…っ!興奮してきちゃうじゃないか…◆」

「ほんと死んでお願い」

焦点の定まらない瞳は、しかしなまえを確実に捉えていた。嫌悪の眼差しを向けるだけであそこを立ち上がらせ、口角を三日月のように釣り上げる男はまさしく変態の名に相応しいのではないのだろうか。なんでこの世界の変態ってこんなレベル高いの…?なまえは自身に備え付いた変態への耐性に若干の虚しさを感じながらも体のオーラを開放させる。

「っと、」

バァンッ!激しい光が辺りを包んだかと思うとなまえの体に巻きついていたバンジーガムが弾け飛ぶ。眩しさからか目を細めたヒソカが目を開けた次の瞬間にはなまえの姿、はてや気配までもが完全に消え去っていた。
その光景を見たヒソカは若干目を見開き、しかし次の瞬間には恐怖さえ感じさせるほどの歪んだ笑みを浮かべる。

「あぁ、あぁ、キミは絶対僕のモノにする◆



……なまえ」


ヒソカのうっそりとした声が月明かりに照らされた路地裏に響き渡った。


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