「んで、なに?」
どうにか荒ぶる息子さんにおとなしくなってもらった俺は、俺のベットに堂々と座る承太郎の前で腕を組む。カーテンを開いた部屋には暖かい光りが差し込んでいる。 って言うかこいついいって言ってんのにわざわざトイレの前まで着いてきて俺の声聞いてんだぜ!?承太郎が優しいのは十分分かってるけど、俺も立派な男子高校生なんだから一人でできるもん! あいにく母さんが出かけてたからよかったものを幼馴染に一人遊びの声聞かれるってどうなの。承太郎さんもちょっとくらい察してよ俺だって羞恥心くらい持ってんの!彼女ならまだしも男の幼馴染って…。胸キュンなんか欠片もねーわ!!
「なに、じゃあねーよ。べつに幼馴染の家に来るのに理由はいらねーだろ」
「そうだけどさぁー」
まぁそうなんだけどね。承太郎ったらいっつも俺の家、ってか俺の部屋にいるからさぁ。承太郎も暇人だよねー。なんかむしろ俺の部屋に居てない時なんてあるの?って感じだし。お昼寝するくらいなら自分の部屋でしなさいってんだ。もし俺に彼女でもできたらこいつどーするんだろ。彼女連れ込めないじゃんかー。ま、悲しいことに彼女できたことなんてないんですけどね。ふんっ、いいもーんだ。俺も成長期がきたら背だってぐんぐん伸びて、承太郎みたいにモッテモテになるんだから!
「ふへへへへ…」
女子に囲まれてる姿を想像してにやにやしてると承太郎からの訝しげな視線がちくちくと突き刺さってきた。な、なんだよその変質者を見るような目は!妄想の中でくらいイイ思いしたっていいじゃん。現実なんて、現実なんてなぁ…っ!なんで俺が女子の嫉妬の的なんだよばかやろー!
「なに一人で百面相してんだ?」
「承太郎には分かんねーよばーかばーか!」
「はぁ?」
眉をよせた承太郎なんか見ないフリをして俺は朝食を食べるためにリビングにつながる階段をとんとんと降りていった。ていうかなんで母さんいないんだっけか?…あっ、そういえば昨日父さんと出かけて来るって言ってたっけ?テレビがちょーどいいところだったからあんまり覚えてないんだよねーあはははは。「おい、■」朝食なんかあったかなー?母さんきっとなんにも作ってくれてないだろうから俺が作らないといけないのか?うっわ面倒くさ…。食パンが残ってたはずだからそれ焼いてーあとはウインナーとスクランブルエッグでいっか。「おい、聞いてんのか」朝食っていってももう12時過ぎなんだけど。あはー俺って日曜日はゆーっくり寝る派なの。「…ハァ、やれやれだぜ」あれ、なにこのメモ用紙。
リビングの机の上にぽつんと置かれたメモを手にとる。んん?なになに…、
「えーと、母さんと父さんはちょっと海外に旅行に行ってきます?ほんの一週間くらいだから心配しないでね…?あんたが一週間も一人で暮らせるとは思っていないので承太郎くんにお世話頼みました…。母さんたちが帰ってくるまで承太郎くんと仲良く暮らしてね。母さんより………」
俺の後ろから覆いかぶさるようにメモ用紙を覗き込む承太郎に勢いよく顔をむける。首にかかる吐息がこそばゆいっていうか勢いをつけすぎて若干首が痛いがそんな事気にしてる場合じゃあない!ていうかさりげなく俺の腰抱いてんじゃねーよ。つかお前でかいんだよ俺をすっぽり包み込む腕なんて嫌味にしか感じねーわ!!
「ってそうじゃなくて!これどういう事なんだよ!!」
幾分か上にある承太郎のイケメンフェイスを精一杯睨みつけながらいう。なんだよ一週間って。俺こんなの知らねーぞ。つか一緒に住むってどーいう事だってーの! 俺の精一杯の睨みなんて涼しい顔をして受け流した承太郎はこつん、と自身のおでこを俺のおでこにぶつけた。承太郎の澄んだ瞳にはアホ面した俺が映っていた。
「だからさっきから■のこと呼んでたんじゃあねーか。」
「え、呼んでたっけ?」
「………。」
ハァ…。なんて深い溜め息を吐き出す承太郎にこてりと小首を傾げる。
なんで溜め息なんて吐いてんだ?
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