(――…遅い)
昨日、一緒に初詣に行こうって言ったのは、雅治なのに。
時刻は待ち合わせの時間から30分も過ぎた9時半。寒くて死んじゃいそう。寝坊してるのだとしたら、きっと雅治はお昼までかかってもやってこない。
「あーっ、もう!」
10分後、わたしは雅治の家に向かうため、バスの中にいた。
:
「あらなまえちゃん!あけましておめでとう!」
「あけましておめでとうございます、おばさん。あの、雅治いますか?」
チャイムを鳴らして待っていると、開けてくれたのは雅治ではなく、雅治のお母さんだった。
「雅治?リビングにいるわよ」
「…お邪魔してもいいですか?」
「もちろん!さっ、あがってあがって!」
リビングにいる、だと?
ということは、寝坊ではなく、ただすっぽかしただけということではないか。
おばさんについて仁王家のリビングに入ると、いた。もこもこの半纏(はんてん)を着込んでコタツで体を温める、雅治が。
「…雅治!」
わたしが怒りもあらわに名を呼ぶと、雅治は首だけこちらに向けて、かしげてみせた。か、かわっ…じゃない!なにそれ!人が寒い中30分も待っていたってのに…!
「ちょっと!初詣どうし「あけましておめでとう」…おめでとう。じゃなくって初詣「今年もよろしくお願いします」…あ、はい。こちらこそよろしくお願いします。…じゃなくってぇぇっ」
台所のお母さんが、おほほと笑った。うぅ、笑い事じゃないのに…。なんだか脱力してその場に座り込むと雅治がちょこっとだけ右にずれて、入るか?と聞いた。もう。変なとこは優しいんだから。
「なまえちゃん、手冷たい」
「ずっっと外で待ってたんだからね!ばか」
「すまんすまん。はい、ふーっ」
「ぎゃ」
いつもは冷たい雅治の手も、コタツに入っていたからか今日は温かい。握られて、息を吹き掛けられた。自分でやったことはあったけど人にされたのは初めてだ。
なんとなくはずかしくなって視線を泳がせると、何故かコートを着込むおばさんと、
「あ、あけましておめでとうございます」
「やあなまえちゃん。おめでとう」
おじさんが視界に移った。……あれ?
「じゃ、わたし達は初詣行ってくるから後はご勝手に。お昼には帰ってくるからそれまでには終わらせとくのよ!」
「あ、はい……え?何を?」
「了解。ゆーっくりしてきてええからな」
「新年からあんまり無理させるんじゃないぞ」
「ええからさっさと行きんしゃい」
え?え?え?何これ、何この流れ。終わらせとく?無理させる?いったいこの人達は何を言っているんだ。意味がさっぱりだ。
私が混乱しているうちにも仁王一家の会話がつづく。…ん?でも、なんだかわたし、こういうの、前にも経験……したような。
それがいつだったか思いだそうとしているうちに、おじさんとおばさんはリビングを出て行った。それと同時に、雅治の手が私の後頭部と腰に回る。
…思い出した!
「れっつ、ひめはじめ」
「いってきまーす」
「いやぁぁぁぁぁっ」
初夢って、やっぱり当たるんだな。
※実はシリーズだったひめはじめ!
※やっぱり変わらないクオリティの悪さ!