「チョコ頂戴」

笑顔で言ってくる幸村に、平静を装いつつもわたしは内心かなり狼狽えた。いいよと、そう答えるまでの沈黙は不自然ではなかっただろうか。その声は震えなかっただろうか。顔は赤に染まっていないだろうか。
いろいろな心配が一瞬にして脳内を駆け抜けた。
わたしは、幸村が好きなのだ。

「赤也とブン太にもお願いされちゃったし」

言い訳がましいこの言葉は、小心者のわたしが彼らから貰った、魔法の言葉だ。
昨日、バレンタインに何かくれと言いにきた二人は、わたしが幸村のことを好きだということを知っていて、尚且つ応援してくれている。そういう意味でもいつもお世話になっているから、別にあげるのはいいけれど、わざわざわたしから貰わなくても鼻血がでるくらい貰えるはずだから不思議に思った。それを言ったら二人はニヤリと笑ってカモフラージュだ、と答えた。自分達にあげるついでに本命にも気持ちを伝えて来い、と。
わたしは本当に優しい友人と後輩に恵まれた。そう思う。

「駄目だよ」

何が、と言う前にわたしは幸村に手を握られた。咄嗟のことに反応できない。わたしは文字通り固まった。幸村に、手を握られた。幸村に、わたしの好きな人に。

「そいつらのと一緒になんかしないで」

時を置いてカッと熱を帯び始める自分の身体への対処の仕方が、わからない。
幸村の言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡っている。どういう意味で言ったのか、いまの冷静じゃないわたしには量れない。
――もし、そういう意味なら。
ゴクリと唾を呑み込んで握られた手に視線を落とす。……駄目だ。勝手に舞い上がって後でそういう意味じゃない、なんて言われてしまったらしばらくは立ち直れない。
赤くなっているであろう顔を隠したくて俯くと、幸村も身体を屈めてしまった。どうしよう。

「なまえの特別を、俺に頂戴」

手に力が入った。私のにも、幸村のにも。幸村の声音は恐ろしいほどにやわらかい。
流石に、もう舞い上がってもいいだろうか。今の言葉はそうとってもいいだろうか。
ぎゅっとつむってた目を開けると幸村の綺麗な顔が目の前にあった。視界がぶれない程度に近い、今のわたしには殺人兵器だ。

「なにっ、……なにが、いい?」

口を開いたら予想以上にか細い声が出てきてびっくりした。そんなわたしの様子が面白かったのか幸村は小さく笑った。顔が離れて距離が戻ったあと、幸村は今まで見たことないくらい優しい顔で、甘さは控え目がいい、と答えた。
その笑顔に息が詰まって、どうしようもなくクラクラした。

「また明日」

手が離れて、そこにあたった冬の風は妙に心地よかった。でも幸村から貰った熱を逃がしたくなくてすぐ、わたしは手を握り込んだ。

「また明日!」

少し離れた所にある背中に声をかければ、あの優しい笑顔が返ってきた。
甘さは控え目。心の中で呟いてわたしは部室に戻った。
優しい友人と後輩に、ありがとうを言うために。

















企画提出に加筆修正。
なんだかいつもと違う雰囲気と文体なのはこれがバレンタイン前に書いた自身の願望だから←


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