一年前、夏



「「ありがとうございました!!」」



俺達は、負けた。

全力で戦って、負けた。


だから悔いはないとか。
勝ち負けが全てではないとか。


そんな綺麗事、思えるわけがなくて。


整列が終り、青学のベンチ前では幸村君を負かした生意気な一年が宙を舞っている。


関東大会の決勝が始まるまでは、格下の相手だと思ってたんだ。
いや、決勝が始まって、俺とジャッカルの試合が終わった時もそう思ってた。

でもあいつらは、本当に驚くほど粘って。

結果負けた。

それでも、もう負けないと、全国では絶対に負けないと誓ったのに。


大勢の仲間達から宙へ投げられる越前リョーマは呆れた様な顔を保っている。

(生意気な奴め。)

ああ、クソッ!
俺は、俺達は、幸村君を胴上げしたかったんだ!!

えげつないほどに相手を負かしてくれただろう、怖い怖い幸村君を。

高く高く打ち上げて、「ハハハ、お前達あとで覚えておきなよ」なんて言わせたかった。


(強かったな。つーか、強くなったな)


関東大会の時よりも驚くほど成長した青学からくるりと背を向けて、自分達のベンチに向かう。

ベンチには一人で片付けをしているマネージャーがいた。

黙々と、物凄い手際の良さで。
顔は見えないからわからないけど、こいつも悔しいんだろうな。


助走を付けて、走り出す。

七栄の薄い背中を思いっきり叩いてやる。


「痛ってええええ!!!」

やべ、やりすぎた。
すげえ音がした。

「なんなんすか丸井先輩ドメスティックバイオレンスっすか訴えますよ」
「いや俺お前の家族じゃねーしドメスティックバイオレンスではねーよ」
「え!ドメスティックって家族って意味なんすか!」
「そーだよ」
「じゃあアレっすか、ただのバイオレンスじゃないっすか。やめてくださいよ乙女になんてことするんすか」
「片付け手伝ってやるよ」
「‥‥どーも」
「‥‥‥‥‥」
「‥‥‥‥‥」

バシーンッ

「っ!!」

散らばっていたボールをケースに仕舞っていたら、背中に物凄い衝撃を受けて前につんのめる。

「あ、超手痛い」
「‥‥なにすんだよぃ」

どこが乙女だよ、女子の力じゃなかったぞ今の‥‥

「おつかれっした」

七栄は、本当にいつもの部活が終わった時のような軽さで、そう言った。

「‥‥ああ」
「まあ来年見ててくださいよ、見事立海三連覇を成し遂げてやりますよ」
「‥今年負けた時点で三連覇は成し遂げられねーよ」
「見事立海一連覇を成し遂げてやりますよ」

連覇じゃねーよそれは。
ああ、なんで俺の後輩はこんなに馬鹿なんだろう。

「そんで、先輩達も、高校で一連覇して待ってれば良いじゃないっすか」
「マネージャー」
「なんすか」

七栄は、手を止めて俺を見た。
少し目が赤い。

「赤也の事、支えてやれよ」

七栄はフンっと不敵に笑った。

「あいつを支えるのは、私じゃなくて他の奴らで、私が支えるのは、そいつら全員ですから」

強い日差しが照りつける。
ジーワジーワと蝉の声が五月蝿い。
ああ、あちい。

「先輩、テニス部さいこーっすよね」
「ああ、最高だな」

背中が、ヒリヒリと痛い。




閉会式。
皆それぞれ、神妙な顔つきで並んでいる。

準優勝、立海大学附属中学

幸村君が表彰台へ上がる。

‥小さな、トロフィーを受け取った幸村君がこちらを向き、
その顔を見たとき、俺は不覚にも泣きそうになった。

凛々しく、晴れ晴れとしていて、優しい顔。
すげえ格好いい。


ああ、早くテニスがしたい。もっと、沢山、濃密に。




閉会式が終わってバスに乗り込もうとしたとき、とぼとぼと一人で歩いている赤也の背中が見えた。

助走を付けて、走り出す。

馬鹿め。お前はここで落ち込んでんじゃねーよ。

七栄の時より強く、全身全霊を込めてひっぱたいたら赤也は五歩ぐらい前につんのめった。

「痛ってええええ!」
「おう、何しけた面してんだよぃ」
「ちょ、丸井先輩何するんすか!超いてー!どめすちっくばいおれっとじゃねーっすか!」
「‥ああ、もうそれで良いよ」

こいつは本格的に馬鹿だなぁ。
頼りないっつーか、こいつはすぐキレるし、乱暴者だし、不安要素は沢山あるけど。


真っ赤に目を充血させた、赤也のワカメを両手でかき混ぜてやったら物凄く嫌がった。


頑張れよ、俺達はお前の事信頼しているんだから。

もうバスに乗っていた他の連中も降りてきて、皆で赤也を揉みくちゃにする。


俺達の戦いはこれからだ!!

なーんて、少年漫画の打ち切り最終回みたいな事を思いついて、少し愉快な気持ちになった。

テニス部、最高だな。マジで。

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