七栄



頬がピリピリと痛い。

寒さに足がじんじんする。

パーティーが終わって、田中と香苗ちゃんは親が車で迎えに来た。

赤也は今年こそ遅くまで起きてサンタを見るんだと息巻きながら隣の家に入っていった。

「さみいな」
「そっすね」

たったこれだけの会話なのに私と丸井先輩の顔の周りには白い息が面白いくらい纏わりつく。

先輩を駅まで送る道。
先輩はいらねーよ、と笑ったけど私は歩きたい気分なんですと無理やり付いて出た。

「男子は良いっすよねーズボン」
「お前はスカート短すぎんだよ。見てるだけで寒いわ」
「別に長くても寒さ変わんねーっすよ」
「え、そーなの」
「長い方が良いんですか」
「いや短い方が好きだ」
「ですよねー」

先輩は短いのが好き。そう頭にインプットしながらあとどれくらいで駅に着いてしまうかを計算する。

‥15分くらいか。

いや、寒さからか、若干早足で歩いていることを含めて考えればもう少し早く着いてしまうかも。

隣でポケットに手を突っ込んで歩く丸井先輩をチラリと見る。

(先輩、もっとゆっくり歩かないかな)


「つーかスカートってすげえよな」
「は?何がっすか」
「だって腰に布巻いてるだけじゃねーか。なんも守れねえよあれじゃ」
「ああ、風が吹けば捲れますしね」
「防御力低いよなー」
「でも下にジャージはくと怒るじゃないっすか」
「そりゃ怒るよ。ありえねーだろぃあの格好。スカートの良さが無くなっちまってるじゃねえか」
「私知ってますよ。先輩と仁王先輩、ズボンの下にスエットはいてますよね。ずるくないっすか」
「な、なんで知ってんだよ…」
「仁王先輩が着替えてるの見たんですよこないだ。聞いたら丸井先輩もやってるって」
「いやスラックス薄くて寒いんだよ」
「スカートの方が寒いっすよ」


ああ、もうすぐ駅に着いてしまう。
それなのにどうでも良いスカート談義しかしてないって…
クリスマスなのに

「タイツとかはけば良いじゃん」
「え、タイツって先輩が思ってる程暖かくありませんよ」
「良いじゃん。俺タイツ好きなんだよなー」
「‥‥色は」
「ん?」
「何色のタイツが好きかって聞いてるんですよ」
「え、まあ黒とかじゃねーの?普通」
「カラータイツとかあるじゃないっすか」

黒いタイツ、あったかな…

「あー、カラータイツとかも良いよな。制服にはあれだけど私服で」

カラータイツ、あったかな…

「あ!おい上見てみろよ!」
「え。上?」

いつもと変わらない下らない話しをしながらもグイグイ足を動かして、駅まであともうちょっと、といった時だった。

急に立ち止まった隣を見れば、空を見上げて顔を輝かせる丸井先輩。
それにならって顔を上にあげる。

「っ、やっべえ…」
「だろ?」

星、星、星、星。
満面の星空。

(落ちてきそう。)

無意識に手を上へ伸ばした。

「星が降ってきそうだよな」

先輩も同じように手を伸ばしていた。

「こんなに星が見えるの珍しいっすね」
「今日朝からかなり天気良かったからな」

再びどちらからともなく駅に向かって歩き出した。


「あっ、おい!っぶねえな…」

歩きながらまだ夜空を見ていた私が電柱にぶつかりそうになった所で腕を掴まれた。

「うわっ、すんません」
「気をつけろよ」

‥‥‥手、つながれた。

「先輩、なんなんすかそのさり気なさ」
「はあ?なんのことだよぃ」

ニヤッと笑った先輩は私の気持ちなんてお見通しなんだろう。

『嬉しい』と『恥ずかしい』の二つの感情が入り混じった複雑な気持ちに、さらに『勿体無い』の感情が参入する。
複雑すぎてどうにかなりそうだ。

もうすぐ駅に着いてしまう。
あ、着く。もう着く。‥着いたー

「着きましたね」
「そうだな」

繋いだ手と顔が熱い。

「じゃあ、さようなら」

手はまだ繋いだまま。

「よし、じゃあ帰るか」

手をほどかれるかと思ったのに、先輩はくるりと向きを変え、ぐいと私を引っ張った。

「は?どうしたんすか」

さっき歩いた道を戻る先輩に慌てて訊ねる。

「忘れもんっすか?」
「送ってくんだよお前を」
「はああ?!」

えええ、それじゃあ

「私何のために着いて来たんすか!!」
「散歩だろぃ?」

遅いし、危ねえだろ。そう前を向いたまま呟いた先輩の横顔を見て、胸が潰れそうになった。

「ありがとうございます」
「おう」

最近ようやく気がついたんだ。
多分、おそらくこれは恋心で。
それは凄く嬉しいことなんだって。

丸井先輩と会うと、つい「好きだ」と言ってしまいそうになるけど、今の関係が崩れてしまうのはとても怖くて。

「七栄」
「はい、って名前…」
「え?別に良いだろ」
「はい」

いつも、私はマネージャー、と呼ばれていたから驚いた。
他の先輩達も、みんなそう呼ぶ。私以外のマネージャーは名前で呼ぶ癖に…

「明日さあ、家来るか?」
「えええ!?」
「うるせーな」
「だって、え、先輩ん家っすか?」
「ああ、ケーキ作るから手伝え」

ヤバい。ヤバい。やっべえ。

「行きます」
「じゃあ学校終わったら待ってろよ」

嬉しい。
ああ、顔がにやける。

「何作るんすか?」
「ブッシュドノエルと普通の生クリームのやつ」
「二つっすか」
「まーな」
「弟明日いますか?」
「いるよ」
「ふっ、全力で遊んでやりますよ」
「おお、頼んだ」


隣には丸井先輩がいて、手を繋いでて。
今日はクリスマスイブで、明日はクリスマスで。
今とても幸せで、明日は楽しみで。

今なら素直な気持ちで赤也がサンタに会えることを願えるくらいだ。


ふと夜空を見上げれば、さっきと変わらずに満点の星がキラキラと瞬いていた。




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