香苗



「皆。ちょっと聞いておくれ」

七栄先輩がそう言ったのは、それはそれは豪華なクリスマスディナーをご馳走になっている途中、赤也君がトイレに席を外した時だった。

「なんだよぃ」

丸井先輩は両手でチキンを持って口一杯に頬張っている。
マイペースだなあ。

七栄先輩が神妙な顔をして口を開く。

「協力して欲しい事があるんだけど」



***

「七栄、姉ちゃんまだ帰って来ねえの?」
「うん。もうすぐ帰ってくるんじゃないかな」
「えー、帰ってくんのかよー」
「嫌なのかよ」
「嫌だよこええもん」
「ところで皆、今年サンタに何頼んだ?」

少し不自然に思えなくもない切り出し方で七栄先輩がそう言った。
赤也君以外の皆でアイコンタクトを交わす。

「俺は、えーっと食いもんだな」
「わ、私は、えーっとドライヤー!香苗ちゃんは?」
「ド、ドライヤーですか?何でまた…あ、私は‥赤也君の高校合格をお願いしました!」
「香苗ちゃん、それプレゼントと違う!」
「香苗、お前そんな可愛い事…皆がいる前で恥ずかしいじゃねーか!!」
「彼女に高校進学心配されてるお前の方が恥ずかしいだろぃ」
「切原君は?」
「俺か?俺はな、」

得意げな表情で語り出す赤也君を微妙な気持ちで見つめる。
赤也君が席を外している時に、七栄先輩が皆に協力して欲しいと言ったのは、サンタクロースを信じている赤也君に話を合わせて欲しい、って言うことで。

その話しを聞いた瞬間、私も田中先輩も丸井先輩も数秒固まってしまった。だって

(中学三年生で…)

『切原家と私と私のお姉ちゃんで赤也を騙し続けて15年だよ』

七栄先輩のバツの悪そうな表情が蘇る。

『初めは、こいついつまで信じるんだよって面白半分でさ。流石に中学入ったら気付くだろって思ってたんだけどね、これが全然でさ』

もうこうなったら記録を更新し続けてやろう!って事らしい。

明日の朝枕元に置いてあるであろう新しいゲーム機でまずどの格闘ゲームを買ってもらうかを話し終えた赤也君は満面の笑み。

(可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い)

私の彼氏はなんでこんなに可愛いんだろう。

「香苗ちゃん?どうかした?」

隣に座っている田中先輩が心配そうに私に声を掛ける。

「え?どうもしませんよ」
「そお?なんだか苦しそうな顔していたけど…」

必死に、にやけるのを隠していたのが苦しそうな顔に見えたらしい。
ポーカーフェイスは苦手だな…



それから七栄先輩がクリスマスケーキを運んで来てくれた。

「わあっ!可愛い!」
「美味しそう!」

キラキラ輝くチョコレートでコーティングされたお洒落なホールケーキを見て私と田中先輩は歓声をあげた。
丸井先輩は無言で身を乗り出している。

「親が仕事の都合で沢山貰うんだよね」

そう言いながらケーキを取り分けてくれる先輩は、ほんの少し寂しそうな顔をした気がした。

こんなに大きな家に住んでいて、お洒落なケーキを沢山貰うご両親の職業を聞いてみたい気もしたけど、あんまり聞かれたくないことなのかもしれない。



「うっめえええ!!」

急に丸井先輩の大きな声が響いた。

「うるさ!」
「おい七栄、ここの店の名前と場所」
「えーっと、あー、今は解りませんすんません」
「あとでメールしといて」
「ういっす」
「あー、今日本当来て良かったー」

本当に幸せそうな顔をする丸井先輩を七栄先輩が幸せそうな顔をして見つめていた。

ああ、ここにもポーカーフェイスが苦手な人が。

向かいに座る赤也君を見れば、丸井先輩と楽しそうに言い争いをしている。

気付いているのかな。

悲しい思い、してないかな。

輝くケーキを口に運ぶ。

「美味しい!!!」
「香苗ちゃんお前もか!!」

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