初恋は叶わない



俺は七栄の事が好きだった。

それに自覚したのは中学に入ってから。
でも、多分、ずっと前から。

物心つく前から一緒にいて、もう友達っつーよりか兄弟みたいな感じだったから、好きだって気がついた時は大層動揺した。

いや、だってありえなかったっつーか。
照れ隠しに酷い言い掛かりつけて喧嘩もしたし、かと思えば全く話し掛けられなくなったりと今思い出すと、本当に、子供。


「赤也君」
「わりぃ、待たせた!香苗」
「大丈夫だよ」


中学一年の時は大体そんな感じで、好きだと意識してから普通に接する事が出来るようになったのは、二年に上がってから。

それからは本当に七栄といるだけでドキドキして、必死に気持ちを隠して、でも七栄は男の先輩や同学年の男子とすっげー仲良くて、それにいちいち嫉妬して。

でも、その気持ちを本人に伝えることは結局出来なかった。
多分これからもそれはない。

隣を歩く、香苗を見る。
一つ年下の髪の長い小柄で可愛らしい女の子。

「赤也君、七栄先輩最近どう?」
「ん?ああ、前より少しは楽しそうにしてるよ。先輩達が今会いに来てるからな」
「そう。私も行きたいな。昼休み」
「じゃあ三人で食うか」
「え、赤也君も来るの?」
「は?おま、は?ひっでーな」
「ふふ、ごめんごめん。でも七栄先輩と最近会ってないから、話したいこと一杯あって」


香苗は俺らの後輩のマネージャーの友達で、七栄とも仲がよい。
それきっかけで、俺とも知り合った。そして

三年になってすぐに、告られた。
その時、俺は七栄が俺を全く男として見ていないという辛い現実と向き合っていた最中だった。
香苗は俺にこう言った。
「七栄先輩を好きでも、いいですから」と。


俺は七栄が好きだった。

いや″だった″ではなくて、今でも。



「赤也君、今日うち来るでしょ?お母さん張り切ってたよ」
「香苗、俺お前のこと好きだよ」
「どうしたの急に」


驚いて、でも嬉しそう。そんな表情をして俺を見る。こいつ本当可愛いよな。


「でも一番好きなのは七栄先輩でしょ?わかってるよ」


そう言って、笑った。
こいつは、こんな事を言って悲しくないんだろうか。
二番目でも良いって言って、言いながら傷ついているんじゃないだろうか。


「ま、赤也君全然相手にされてないもんねー。ざまあっ」
「香苗、お前どこで『ざまあ』なんて言葉覚えてきたんだよ」
「七栄先輩」


あいつ‥なんて思ってたら香苗が手を絡ませてきた。


「ねえ、赤也君。私の我が儘で付き合ってもらってるんだもん。そんな申しわけなさそうな顔、しないでよ」
「お前、なんで俺なんかが良いの?」
「テニスをしている姿が格好いいところ。あと素直じゃなくて可愛いとこ。他人に攻撃的で危なっかしくて、ほおっておけないとこ。あと髪型がイケてるところと」
「もういいよ‥」


照れながら止める。これはあれか、俺も香苗の好きなところをあげていくのが男の甲斐性ってやつなのか。


「香苗!俺はお前の、えーっと、その‥あー」
「ふふふ、あとお馬鹿で不器用なところも好き」


香苗の好きな所、思い浮かぶのに言葉に出来ない。そんな俺を見て香苗は心底可笑しそうにしている。
つないでいた手をギュッと握り締める。


「俺はお前のそうゆうとこが、好きだよ」










***

「おいおい赤也ーようやく童貞卒業だって?」

香苗と帰った次の日、部活が終わった後に顔を出しに来た丸井先輩がニヤニヤと絡んできて、ぎょっとした。
‥‥そうなんです。昨日卒業しました。香苗の両親が料理と置き手紙残して出掛けてたんです。


「付き合って半年以上たってやっとか。で、どうじゃった」


あああ、仁王先輩もこっち来たよ‥何なんだよこの先輩達。


「せ、先輩達どこでそれを‥」
「さあのぉ」


昨日の今日だ。俺は仲の良い友達にしか言ってない。どいつだ‥どいつが漏らした。


「ほら感想言ってみろぃ」
「いや、なんつーか、意外とこんなもんかってゆうかんじでした」
「あー!わかるわかる!最初はやっぱ皆そうだよなあ!!」
「童貞はセックスに異常な期待を持つからのぉ。赤也も大人になったか‥」


二人とも大人ぶって‥まあこの二人は中学からやりたい放題だったし。


「なあ、そういえば七栄って処女なの?」


丸井先輩が急にそんなことを聞いてきたから俺はブッと吹き出す。飲み物口に含んでなくて良かった‥


「知らねーっすよ。本当。ただあいつ悪い先輩達と付き合いあるし、どーなんすかね」
「ほぉ、赤也も知らんのか」
「つーか幼なじみのそんな事情把握してたくないっすよ!」
「え、七栄は知ってたぜぃ。お前のこと」
「‥‥は?」
「昨日俺らにメールで知らせてきたの七栄じゃよ」




「おい赤也、帰っぞ」

またいつかと同じように良いのか悪いのかわからないタイミングで部室に七栄が入ってくる。

「おいこら七栄なんで知ってんだよマジでつーかなんで先輩達にチクってんだよマジで」
「ああ、赤也、おめでとう」
「お、おう。って、そーじゃなくてー!!」
「昨日香苗ちゃんと電話してさー」






か、香苗ええええ!!

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