だってぼくらは思春期



「丸井先輩また彼女できたんすか?」

携帯の待ち受け画像がチラッと見えて、それが女子と写ったプリクラの画像っぽかったからそう訪ねた。
確か1ヶ月前に彼女と別れてた気がする。スパン短いよなー。

「ん?ああ、これあいつだよ。七栄」
「はあ?付き合ってんすか!?」

おいおい嘘だろ?

「付き合ってねーよ。昨日たまたま帰り会ってよ、ゲーセン行ったんだよ、そん時の。俺の写りが良かったから待ち受け」

良く見せてくれたその画像は、七栄と丸井先輩がすっげーキメ顔でピースなんかして(二人ともあご下裏ピースだ)
落書きで「シクヨロ」なんてセンスの無いこと書いてある。

俺、七栄とプリクラ撮ったことなんてねーのに。

「他のも見る?一枚やろーか?」
「いーッスよ」
「あ、俺欲しい。丸井、貸してみんしゃい」

急に仁王先輩が入ってきた。

「なんじゃ、お前ら写り良すぎんか?逆に怖いわ。あ、この七栄かわええ。これくれ」
「いや、それ俺の方が可愛いだろぃ。ほらよ」

仁王先輩がもらったやつを盗み見る。
やたらと目がデカいし、超笑顔で楽しそう。

「キモいじゃないッスか。それ」
「おん。キモ可愛いじゃろ」
「え、それ俺の事じゃねーよな!?あいつの事だよな?」

丸井先輩ひでえ。
仁王先輩も。


可愛がられてるよな。あいつ。
ほんの少し、寂しい気持ちになる。


「あ、丸井先輩。それ、あんま女子に見せないでくださいよ?特に中等部の」

確かこの人後輩に知り合い多かった気がする。

「は?なんで」
「‥今あいつクラスではぶられてるらしくって」

あんまり女子の嫉妬を買わせないようにお願いします。そう言ったら‥‥



たっぷり五秒、間を空けて

「はあああああっ!?」
「何でじゃ!?」


そうなっちゃいますよねー。

「いや、今の状況はクラス違うし女子の事だからよくわかんないんすけど、酷いイジメとかは無いらしいッスよ。ただ女子は誰も話しかけないって‥クラスでは男子としか話せないみたいっス」

「それはイジメじゃよ」

仁王先輩が険しい顔をしてそう言う。

「原因は?」

丸井先輩に聞かれ、答えに詰まる。だって、

「‥‥‥‥‥‥‥たぶん、俺ッス」






部室の床に正座させられ、前には丸井先輩と仁王先輩が立っている。

「おいこら誰が足崩して良いっつった」
「はよ言い訳始めんしゃい」

あれ、これなんていじめ‥

「あのですね、俺とあいつ、全国終わった後喧嘩したんすよ」
「そんなんいつものことだろぃ」
「いや、いつもと違くて、一週間は冷戦状態で‥」

喧嘩の原因は、なんだったか。いや、覚えてるよ。忘れるわけねー。
ただ今思い出すと、全面的に俺が悪かったように思える、そんな喧嘩。

「で、最終的に本気でキレたあいつが、俺のこと殴ったんスよ。マジ殴りでした。‥学校の廊下で」

それでなんとか俺達は和解したんだけど、‥いやまだ若干ギクシャクしているか。

「そんとき俺、軽い脳震とう起こして、あ、全然大丈夫だったんすけど」

「切原君可哀想ーって女子がなって。ほら、俺って女子に人気あるから」

「俺は、説明したんすよ、その女子達に。喧嘩の原因は俺が悪かったからで、あいつとは昔から殴り合いの喧嘩なんてしょっちゅうだって」

「でもなんか、女子達は七栄のこと怖いし最低って」



むしろ、やっと七栄をはぶる理由が出来たって感じにも見えた。

「‥そういやあいつ同学年の女子から良く思われてなかったよな」
「ちゅーか男子殴って脳震とうにさせる七栄、流石じゃな」

あいつの姉ちゃんはこの辺ではちょっと有名な″わる″で、そんなこともあってか、先輩達、それも柄の悪い人たちに大層可愛がれていた。もちもんテニス部レギュラーの先輩達も気に入っていたし。

だからか、1・2年の時は同じ学年の派手な女子はみんなあいつと仲良くしたがってた。でもあいつは愛想は無いし、言いたいことズケズケ言うし。そういう所で女子は良く思わなかったんだろう。あと男子と仲が良いし、多分嫉妬も。

三年になってあいつを守る先輩達が卒業してから、派手目な女子達はそれまで溜まってた不満とか鬱憤を晴らす機会を伺ってたんだろう。


少しの間、沈黙が流れる。


「女子は陰湿じゃのぉ。大体の奴は多数派に逆らえんし」
「お前、助けてやれなそーなの?それ」
「あいつ、余計なことするなって。平気そうな顔して。本当に平気かどうかはわかんねーッスけど」

いや、あれ、平気っぽいんだよな。割と。

「‥‥‥平気かもな」
「あいつじゃしな」
「そー思いますよね、あいつだし」


「ま、男子とは今まで通り仲良いし、部活繋がりで後輩とも仲良いし、大丈夫かもしれないっすね」

俺もいるし。そう心の中で付け加える。




「ま、高等部上がればまた俺達がいるし、おさまるだろぃ」
「そーじゃな。赤也、お前さん七栄の事守れよ、本気で」





「赤也ー。帰っぞこら」

急に部室のドアが開いた。

「あ、先輩方来てたんすか」

おつかれーっす。と軽く言う。


やべ、今の今まで話題にしてたこともあってか、少し気まずい。

「おおマネージャー、プリクラもらったぜよ」
「あー昨日撮ったやつ。めっちゃ写り良かったんすよー。あっそう言えば丸井先輩!プリクラ代200円!返して下さいよ!」
「なんだよぃ。コンビニでいろいろ奢ってやったろ?」
「ガリガリ君、60円じゃないっすか!」
「あとほら、肉まんとか買ってやったろ」
「えー、てゆうかあれは先輩の純粋な善意からなる奢りですよねー!」


気まずかったのは俺だけか。

「七栄、帰んだろ?」
「おう。じゃあ丸井先輩、今度はプリクラ400円だして下さいよ?」

お先に失礼しまーす、そう言って二人で部室を出る。



数え切れないぐらい二人で歩いたこの通学路。さっきまで見事に真っ赤だった夕焼け空はあっと言う間に夜の暗闇とバトンタッチしていて。それでも街灯が近い間隔で設置してあるせいか、大分明るい。


「日が落ちるの早くなったねー」
「話題のチョイスが年寄りじみてんな、お前」
「うっせーよ。ねえ赤也ー」
「あ?」
「こないださー殴って悪かったよ」
「‥‥‥いつの話ししてんだよ馬鹿」
「いや、謝ってなかったから」
「別に、俺が悪かっただろ」
「まーね。あ、そう言えば香苗ちゃん元気?」
「元気だよ、昨日会った」
「ほーお。もう別れんなよ、良い子なんだから」
「‥‥わかってるよ」




俺達の家は学校から歩いて20分くらい。もう七栄んちが見えた。

じゃーな、そう言って七栄んちの門で別れた。俺んちはここから三十秒で着く。



あいつが玄関で大きな声で「ただいまー!!」と言っているのが聞こえる。
恥ずかしい奴。あーあ、早く高等部に上がりてーな。






***
補足。先輩達は本人のいないところでだけ名前呼び。


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