恋とか愛とか



なんだかここ最近可笑しい。私。

いつもよりもずっと、考え事をする時間が増えた。
もやもやもやもや、いくら考えたって答えが見つからない。

隙があれば、思い出す。

いつかの公園で頭を撫でてきた手だとか、薄暗い中での優しい顔だとか。
こないだの屋上で、暖かい日溜まりの中初めて泣き顔を見られた事とか、先輩の困った顔だとか。


「ねえ田中、私可笑しくない?」
「ええ?いや、いつも通りじゃないかな?」

え、そうかな‥
いやでもなんか変なんだ。

「いつも通りじゃないよ」
「ご、ごめんね!七栄ちゃんの変化を敏感に感じ取れなくてごめんね!」
「あやまるなよ田中」

謝るのはこっちの方だ。急に変なことを聞いてしまって。
‥嫌われなかったかな今の。

「どうしたの?なにかあったの?」

でも、そう聞かれても、自分でもよくわからないんだ。

「よくわかんないけど」
「お悩みなら、聞くよ?私で良ければ」

田中は優しいなあ。心が広いぜ。
本当に心配したような表情でこちらを見てくる。
田中は、凄い良い奴。友達もいっぱいいるし。
それなのにこんな面倒くさい私みたいなの相手にしてくれる。


「‥なんていうかさ、ここ最近頭の中にずーっと″ある人″が居座ってて」

「その人のことばっかり考えてる」

「なんか、偶然ばったり会わないかなーとか」

「顔が見たかったり、話したかったり」

「でもなんかわざわざメールしたり会いに行ったりするのも恥ずかしいような」

「なんだろうこれ。気持ち悪いんだけど、田中、なんだかわかる?」

きっと田中なら受け止めてくれる、そう信じてここ最近の悩みを打ち明けてみた。
田中はなんだか急にソワソワしだした。

「そ、それ、七栄ちゃん、そ、その″ある人″って男の人?」
「うん」

そうだ男の人だ。田中は少し興奮している。なんだよいったい。

「その、男の人って、もしかして、あ、違ったらごめんね!えっと、その」
「え?なに?」
「ま、丸井先輩?」
「は」

一瞬固まる。

‥‥‥な、なんでわかったんだ!

「田中なんでわかるんだよ。ほんとなんでだよ」
「きゃー!!」
「落ち着きなさいよ」

付き合いは短いながらもここ最近良く一緒にいてくれる田中だが、こんなに興奮しているところは初めて見た。

「そうじゃないかと思ってたの。七栄ちゃん他の先輩方が来たときより丸井先輩が来たときの方が嬉しそうだったから」
「あー、まあ嬉しいかも。なんでだろ」

そうなんだよな。もちろん他の先輩方のときも嬉しいのだけど。ベクトルが違うというか。

「それに丸井先輩も!こないだのお昼この教室来たとき、すっごく七栄ちゃんのこと大切にしてた」
「え、マジか」

そうかな、大切?されてたか?どのへんだ?
確かに優しいけど。

「七栄ちゃん!恋だね!」
「はあ?」
「え?」

聞き返したら聞き返された。

「なに言ってんの田中」

いや本当、なに言ってんだろう。
あれ、ものすごいキョトン顔しとるで田中。

「え?恋だよね?それ」
「いやいやいや違うやろ」
「えええ?恋だよそれ!」
「何でやねん」
「ええええ?」



え、だってこんなん、私の知ってる恋と違う。


最後に男の子を好きになったのは、小学校低学年のとき。
相手は、赤也。


丁度少女マンガとかを読み始めた時期で、恋だとか愛だとかに憧れてたんだ。

当たり前のように一緒にいた赤也を、その対象に見始めたのは、なんてゆうか本当に当たり前の事のように思えて。

確か、告白まがいのことをして、振られたんだ。

「結婚しようぜ」と言ったら「はあ?やだよ」と言われたんだ。

‥‥‥黒歴史!!

それから私は少女マンガを読むのをやめてしまった。

赤也とは、何もなかったかのように今まで通りの幼なじみに戻り、今に至る。

‥今まで通りってゆうか、そのことがあってから私はかなり赤也に酷いことを言ったりやったりするようになったけど。



それが、私の一番新しい恋の記憶だ。

丸井先輩に対してのこの気持ちとはずいぶん違う。
なんてゆうか、これはそんなに浮かれたものじゃない。


「田中、とにかく恋ではない」
「‥そう?」
「うん。聞いてくれて、ありがとう」
「ううん!また何か悩み事があったら話して」
「うん」







部活が終わってから、かつて私のプロポーズを断った男に声を掛ける。

「赤也今日帰りどうすんの?」
「あ、今日香苗が待ってくれてる」
「ふーん。じゃあな」
「え、三人で帰ろうぜ」
「なんで?」
「香苗がお前と帰りたいって」

香苗ちゃんは本当に私が好きだなあ。まあ私も好きだけど。

「しょーがねーなあ香苗ちゃんは」
「ほんとあいつ可愛いよな」

急にノロケ始めた。ウザい。
こないだ香苗とあそこに行っただの今度はどこに行くだの嬉しそうに話し始めた赤也はデレデレとした気持ち悪い顔になった。
なんだっけ、こういう顔‥そうだ、破顔。

遠くから走ってくる香苗ちゃんが見えた。
隣を見るとキリッと顔を引き締める赤也。キモい。

「香苗!」
「七栄せんぱーい!」

どんっと私よりも少し小さい身体が飛びついてきた。

「よしよし。相変わらずお前は可愛いなあ」
「か、香苗、待たせて悪かったな!」
「七栄先輩!お久しぶりです!会いたかったですよー」
「うんうん。私も会いたかったよ」
「か、香苗?」
「直接会うの、本当久しぶりですよね!」
「そうだねー。でも毎日メールしてたじゃん」
「ええ?!お前ら毎日メールしてんの?!」
「メールだけじゃ伝わらないですよー」

テンションの高い香苗ちゃんを宥めつつ、いつものように私を赤也と香苗ちゃんで挟んで歩き出す。
なぜか三人で歩くときは私が真ん中。なんでだろ。

赤也と香苗ちゃん。
たまに別れるけど、本当に二人は仲が良い。
別れる時は、大体赤也が悪い。らしい。
詳しい理由を私は教えて貰えてないけど。

二人にも、いろいろあるのかもしれない。

恋とか愛とか。

本当によくわからない。



話しながらゆっくり歩いて、校門にさしかかったところで
「七栄ー!あーそーぼ!」

柄の悪い車が停まってんなーと思っていたら、スモークのたいた窓が開き、これまた柄の悪いお兄さんが顔を出し、そう言った。

「えー?どしたの、たっくん」

お姉ちゃんの後輩のたっくん。
昔からなにかと私と仲良くしてくれてたお兄さん。

「今日俺んちでバーベキューするよ!皆七栄連れてこいってさー。お、赤也もいんじゃんひさしぶりー。え!その子誰!!修羅場!?」
「いや、俺の彼女っす」
「まじかよー!!あ、俺たっくん!よろしくね!赤也と彼女ちゃんも来なよ!」

香苗ちゃんを見ると、困ったような苦笑い。

「いや、俺と香苗は遠慮しとくっす」

良く言った赤也。‥あれ、私は?

「そー?じゃあ七栄連れてくな」
「あ、どうぞー」
「オイ赤也どうぞーじゃねーよ。何勝手に言ってんだよ。たっくーん、私も帰りたいよー」
「いいからいいから、はい乗って!じゃあ赤也、彼女ちゃん、またな!」
「ういっす」

半ば無理やり車に乗せられる。
なんだよ、私だって忙しいのに。

主に考え事で。

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