幼なじみの対話



「北さん!」

朝練が終わって、不本意ながら教室に向かっていた途中で女子生徒から声を掛けられた。

「お、おはよう!」
「‥おはよう」

同じクラスの田中さん。
彼女の挨拶に素っ気なく返して一人で教室に向かう。
少し早足で歩いたから田中さんとの距離は開いた。

(田中、良い奴)

こないだの体育でペアを一緒に組もうと言ってきた彼女は、それからも朝会うと挨拶をしてきたり、目が合うとぎこちなく笑いかけてきたりする。

なんだろう。正義感が強いのかもしれない。
おとなしそうに見えてすげーな、田中。

ただ、田中みたいな草食系は。
私みたいなの庇ってたら肉食系の餌食だよきっと。







昼休み。ここのところ毎日高等部にいるテニス部の先輩達がやってくる。今日は、

「七栄」
「んだよ赤也かよ」

珍しい。

「不満かこのやろー」
「別に」

女子からはぶられるようになって最初の頃、赤也は頻繁に私に会いに来ていた。弁当を一緒に食べよう、と誘ってくれていた。
でも、それを鬱陶しがって、拒否したのは私だ。

「屋上行こうぜ」
「おう」


誰もいない屋上に着き、適当なところに座る。


「七栄、最近どう」
「なにその聞き方。普通だよ、大丈夫」
「そっか」


赤也にはどうしても弱いところは見せられない。
赤也もだ。私には頑なに強がる。

私達は、昔からそう。
幼なじみでお互いに信頼しているはずなのに。

「お前さ、やっぱまだ女子と話せねえんだろ?」
「別に不便しないよ」
「そっか」

強がっているときはお互いになんとなくわかる。
今もわかってんだろうなぁ。

「‥‥話し掛けてみたら良いじゃん。お前が思ってるよりやな奴ばっかじゃねーぜ」

どこかぼんやりとそう言った。
昔から変わらない癖の強い髪の毛に大きくてつりぎみな目。
微妙な表情で大きなお弁当を食べている。


「間抜け面」
「ああ″っ!?」

すぐキレる。これで良く友達いるよな。

「私はさあ」
「ん?」

ねえ赤也、

「赤也の自己中ですぐキレるとことかさ、別に嫌じゃないんだよ」
「‥ああ」

私達はお互いを甘やかす。

「赤也もさあ、私の、狭い世界を広げようとしないところ、嫌じゃないでしょう」
「‥うん」

だから、

「羨ましい。赤也が」
「なんでだよ」

だから、そろそろ離れた方が良いんだよ。

「変えてくれる人が出来たじゃん」
「‥ああ」

それが、お互いの為。

「‥そしたらお前が!」
「私は良いんだよ。まだこのままで」

強くなりたい、本当は
私だって変わりたいよ。





「赤也食べんの速すぎでしょ」
「ん、そーか?お前が遅いんだよ」

確かにもう直ぐ昼休みが終わってしまう。
とっくに食べ終わって屋上の床に寝転がった赤也を横目で見て、食べるペースをあげた。


予鈴がなって、立ち上がる。
戻らなきゃ、教室へ
嫌で嫌でたまらないけど。




「俺は!」

「俺はずっとお前の幼なじみだ!!」

屋上のドアを開けたところで赤也がそう言った。

「知ってるよ。そんなこと」
「忘れんなよ!」
「‥うん」

早く私もそっちに行きたい。

「待ってろよ赤也」
「はあ?お前を?」
「うん、先に行ってても良いけど。私もそのうちそっち行くから」
「‥?よくわかんねーけど」
「馬鹿だなあ赤也は」
「うっせ」






教室に入るところで、田中さんに会った。

目が合う。田中さんは少しの間をあけて、ニヘラと笑った。

反応を示さない私を見て、そのまま教室に入っていく。


「田中!!」

思っていたより大きな声がでて焦った。
物凄く驚いた表情の田中さんが振り返る。

「な、なに?」
「‥‥‥‥」

心臓が痛い。

「北さん‥?」
「こんにちは!」

ポカンとしている。それはそうか。
教室の中からクラスメイト達が何事かとこちらを伺っている。

「こんにちは!北さん!」

田中さんはポカンとした顔から、表情を一変させ嬉しそうにそう返してくれた。
可愛いな、こいつ。

「‥私に近寄ると火傷するよ」
「えっ?えっと、大丈夫だよ」
「田中」
「な、なに?」
「さん、付けなくて良いから」
「え?」
「名前」
「七栄ちゃん!」
「ありがとう田中」


そう言って私は自分の席に向かって歩き出す。

ちょっと、私は変わったんじゃないだろうか。
少しだけ。
先輩達とか、赤也のおかげなのかもしれない。


椅子に座ったところで仲の良い男友達が頭を撫でに来たから嫌そうにそれを振り払った。
恥ずかしいなあ、もう。

prev next

 しおり 目次へ戻る
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -