ロマンチックあげるよ



「よう、マネージャー」
「‥こんちわ」


もうこんにちわと言うには日が落ち始めている。
こわばんわの方が良かっただろうか。
そんな事をぼんやり考える。

学校の近くのコンビニの前で丸井先輩と会った。
前にもこんな事があったな。


「んだよ、入ろうぜ」


そう言った丸井先輩の後に続いて店内に入る。

体育をサボって速弁していた日‥軽く癇癪を起こして丸井先輩を置き去りにした日から初めて会った。

‥あ、でも事務連絡的なメールはしたし、こないだ部活に顔出しに来てたときに顔は合わせたか。話さなかったけど。


「お前何買うの」
「‥アイスとお菓子っす」
「俺もー」


先輩は普通に話してくれる。
なんでだろう、私は凄く気まずいのに。


先輩はスナックコーナーへ行き、私は駄菓子コーナーへ向かった。
何故かムシャクシャしてカゴに手当たり次第駄菓子を入れる。


「うわ、お前ホームランバット何本買うんだよ」
「‥背後に立たないで下さいよ」
「あ、俺ブラックサンダー食いたい」
「それはもうカゴに入ってます。10個ほど」
「おお、やるな。俺にもくれよ」
「了承しなくても持ってくつもりですよね」
「まーな。俺アイス見てくる」


いつも通り話せただろうか。
先輩、変に思ってないだろうか。

人に嫌われるのは、怖いし、嫌だ。以前はこんな事思ったこともなかったのに。

ポテトスナックを一掴みカゴに入れて、アイスコーナーに向かった。





「マジでどーしたんだよ。お前が奢ってくれるなんて」
「そんな気分だったんですよ」
「気前いーな。サンキューな」


二人とも馬鹿みたいにお菓子を買って、さらに私はピザまん、丸井先輩はまたあんまん肉まんピザまんを注文して、珍しく遠慮する先輩を押し切って私がお金を出した。
二千円近くした。あのコンビニにこんなに金を落としたのは初めてかもしれない。


二人で半分に分けたパピコをくわえながら公園に向かって歩き出す。


「寒いな」
「もうすぐ11月っすからねー」
「パピコ冷てーな」
「パピコっすからねー」


公園に着いて、二人でベンチに腰を下ろす。
ふと空を見ると、オレンジと紫が混ざったようなピンク色。
地平線の近くは濃い藍色で見事なグラデーションを描いていた。

なんだよ。ロマンチックじゃないか。
隣を見ると丸井先輩もパピコをくわえながら空を見ていた。


「ロマンチックあげーるよー」
「は?何言ってんだよお前」
「ロマンチックあげーるよー」
「‥ああ、あの歌か」


昔のドラゴンボールの主題歌。
先輩も一緒に歌い出す。


「ほんとのゆーうき」
「みせてくれーたらー」


散歩をしている老夫婦がこちらを不思議そうに見ている。
先輩恥ずかしくないんだろうか。私は恥ずかしくない。
大きな声で綺麗な色をした空に響かせるように、歌う。
隣をチラ見すると先輩も楽しそうに歌ってる。
目があって、ハモりの合図をする。
おお、完璧。


ときめくむねーに

キラキラひかった

夢をあげーるよー


やりきった。歌い終わった。先輩歌上手い。

「うおっ、歌ってる間にもう暗くなっとる!!」
「つーかよくお前歌詞覚えてんな。サビから始めたくせに二番に突入したとき焦ったぜぃ」
「先輩歌上手いっすね」
「まーな」


パピコの殻をゴミ袋に入れ、良い感じに溶けた雪見だいふくをまた半分ずつ食べ始める。


「先輩」
「ん?」
「ありがとうございました」
「何が」
「いろいろ。沢山。全部」


先輩は何も言わずに頭を撫でてきた。

こんな風に触られたのは初めてで。

今までも多少スキンシップはあったけど、頭ゴツンとか背中バシーンとかだったし。
‥びっくりして、顔に熱が集まったような、恥ずかしいような、とにかく熱い。
雪見だいふく食べて寒かったのに。


「‥やめてくださいよ。髪ぐしゃる」


頭を優しく撫でる手を軽くはらう。
絶対に顔が赤い気がする。暗いから気づかれてないよね、大丈夫だよね。


「お前なら大丈夫だよ」
「‥はい」
「絶対なんとかなるから」
「‥はい」
「それでも辛かったらさ、俺が助けてやるよ」


暗いけど、先輩の表情はわかった。
優しい顔。
かっこいい。そう言えばこの先輩モテモテだったな。


「俺を頼れ。な?」


可笑しい。私絶対に可笑しい。
顔の熱は全然ひかないし、胸が異常にドキドキする。何これ。


「な、なんで、ですか」


今まで無いぐらいに緊張しながら、小さい声でやっとのことそんな言葉をひねり出した。


「お前なんかほっとけねーんだよ」

「妹みたいで」


ポカン、そんな擬音が聞こえてきそうな顔をしている気がする。いや、自分では見えないからわからないけど、気分的に。

‥なんてことだ。妹だと?

‥あれ、なんで私は今こんなに釈然としない気持ちなんだ。訳が分からん。


「私、妹じゃねーです」
「知ってるよ。でもなんか妹気質っつーか、末っ子っぽいっつーか」
「あれですか、愛されキャラってことですか」
「ぶっ、自分で言うなよ」
「先輩も愛されキャラですよね」
「まーな」
「先輩、今度カラオケ行きましょう。また熱唱しましょう」
「ああ、行こうぜぃ。今度のテスト休みにでもな」
「あ、ピザまん冷めてる」
「お前マジで会話の飛び方ハンパねーよな」
「ピザまん達は家に持ち帰りましょうか」
「そーだな」


いっぱい買ったお菓子を山分けして、ベンチから立ち上がる。


「帰るか、さみーし」
「そっすね」


途中まで一緒に歩いて、駅へ行く先輩と途中で別れた。

一人で歩きながら、考える。

(妹‥)

もし、丸井先輩がお兄ちゃんで、家に帰ってもいたとしたら。

それはちょっと嬉しいかもしれない。

いや、でもよくわからないけどドキドキしてきっと落ち着けない気もする。

私の家なのに‥



うん、丸井先輩がお兄ちゃんっつーのは無いわ。



結論が出たところで、落ち着ける我が家に到着した。

大きい声で、言う。

「ただいまー」

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