複雑な感情



席替えがあってから、数日。

相変わらず謙也を目で追う松下を目で追う自分がいた。

もう謙也の席は松下の後ろだから授業中見てるってことはないけど。
隣にいるからか、前よりも分かる。松下が謙也の一挙手一投足に微かに反応しとることに。

(分かりやすすぎや)

謙也は壊滅的に鈍いからアレやけど、俺以外のやつも気付いてるんとちゃうか。

そう思ってたけど、おそらくそれは無いっぽい。こないだクラスメイトにさり気なく、謙也に気がありそうな女子について、とかそんな話題を降ってみたところ松下の名前はあがらなかったから。

ほんまなんなんやろ。違う男を好きって分かってる女子をこんなに気にするなんて、どう考えても無駄やのに。

頬杖をついてやる気なさそうに授業を受ける彼女を横目で見る。

ここ数日で松下と大分仲良くなった気がする。

なんだかんだ毎休み時間にちょっとは喋るし、こないだは少し前に再放送していた韓国ドラマの話で盛り上がった。DVDを持ってると言ったら貸してほしいと言われたから、今絶賛貸し出し中。
松下はあんまり騒ぐ女子じゃないが、ノリは良いし、なかなか切れの良いツッコミをするから話すのは結構楽しかったりする。

彼女との会話にはちょいちょい謙也も入ってきて、俺はさり気なく彼女と謙也が多く話せるように会話を運んでやったりしている。勝手に。

松下は絶対に自分から謙也に話し掛けないから。なんとなくじれったくて。

好きならもっと積極的にいかな、絶対謙也気付かへんで。

(俺は応援したいんか?松下を)

わからへん。なら何でこないにもやっとすんのやろ。

もやっとしていたら、授業が終わった。



「白石君、これおおきに。途中から見逃してたから助かったわ」
「どういたしまして。ほな、これその続きな」

貸していたDVDを受け取り、新しいDVDを渡す。

「ほんまこれおもろいよなあ。ここ最近寝不足や。うちもおかんも」
「睡眠はとらなあかんで。最低でも六時間はとらな。おかんにも言っとき。ちゅーかもう直ぐテスト期間なるけどその間は貸すのやめるか?」
「いやあ、生殺しや」
「松下さん家で勉強しとるんか?」
「おん。1日20分進研ゼミやで」
「へー、テスト前はどんくらいやるん?」
「1日20分の進研ゼミや」
「ええ?テスト前もか?」
「毎日コツコツが重要やねん。テスト前ぎゅっとやっても結果あんま変わらへんもん。大事なんは基礎や」
「おお、松下さん話しがわかるなあ。一番大事なんは基本やんな、基本さえ分かっとれば何にでも応用聞くしなあ」


「うーわー、なんや頭良い会話しとるでこの人ら」
トイレから帰ってきた謙也が、インテリやインテリがここにおるで、と言いながら自分の席に着く。
松下の表情が緊張して、少しぎこちなくなる。それでも嬉しそうだ。

(ほんま、なんで皆気付かへんのやろ)




もし、謙也が気付いたら。
彼女の視線に、その意味に気付いてしまったらどうすんのやろ。


気付かれたらあかんよ。

そう思った瞬間、我に返る。

いやいやいや何考えとるんや俺は。意味が分からん。




‥‥まあ大丈夫やろ。謙也はテニス馬鹿やし。
まあそれは俺もか。

好きーとか付き合うーとかそんなんは取りあえず夏まで考えられへん。
そう言い聞かせ、適当に相槌を打っていた会話にもどる。



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