特に親しくない後輩



ガラリと音がなったと思って顔をあげれば図書室の扉がすべって黒髪の男子生徒がのろのろと入ってきた。

「‥‥‥」

無言でカウンターの内側に入り込み私の隣に腰をかけた。

「遅くなりました」
「ええよ、お疲れさん」

毎週金曜の図書当番。
今日の図書室はなかなか繁盛していて、結構な人数が図書を借りたり返したりの手続きに訪れた。

カウンターにやってくる生徒が途切れたときに隣の後輩に声をかける。

「あ、せや財前君」
「なんすか」
「こないだほんますんませんでした」
「こないだ?」
「先週金曜うち学校休んでしもうて当番ひとりでやらせてしもたやろ、ほんまごめんな」
「ああ、ええですよ。めっちゃ暇でしたわ」
「うわー、おおきにな」

先週風邪で珍しく学校を休んだとき、運悪く図書委員の当番の日で。
その前の日は白石に送ってもらったっけな、とつい白石のことを思い出せば、昨日の体育の授業のときの仕打ちを思い出してしまってイライラした。

「先輩」
「うん?」
「先輩何組でしたっけ」
「Bやで」
「そっすか」

昨日から白石と会話をしていない。
向こうはなにごともなかったかのように話し掛けてくるが、シカトした。
そんな私に忍足君は「白石が悪いわ、俺は松下の味方やで」と話し掛けてくれてその言葉を一生の宝物にしようと心に誓った。

「先輩」
「はい?」
「先週の木曜」
「うん?」
「体調悪かったんすか」
「え?ああそうやったで。早退はせんかったけど」
「ふーん」

ふーんて。先輩にふーんて。

「どうやって帰りました?」

妙な質問をしてくる後輩をまじまじと見ればふてぶてしく足を組んで携帯をボチボチいじっている。
前から思っとったけど偉そうやなこの子。

「友達が自転車で送ってくれたんよ」
「そっすか」

謎だ。何が聞きたいねん。
こちらを少しも見ずに携帯に夢中な後輩はそれ以上特に話しかけてこなかった。


「返却本しまってくるな」
「あ、はい」

両手で本を抱えていつも通り会話の弾まない気まずいカウンターを抜け出し、真っ直ぐに窓際の棚に向かった。
窓の外、輝く金色を見つけてドキンと胸が高鳴る。

図書室の窓から、テニスコートを丁度ええ具合に上から見下ろすことが出来るのに気が付いたのは一年生のときで。
二年の時から図書委員の座を死守し続けた。

(ほんま、速い。笑顔、かわええ。真剣な顔、かっこええ。)

どこにいたって忍足君を驚くべき速さで見つけてしまって、それは彼が目立つからだと思っていたけど、どうやら私の目が自動的に彼にピントを合わせているのだと気が付いたのは随分前。
私の視界の中心にいる汗でキラキラな忍足君に白石が優雅に歩きながら被さってきたと同時にハッとした。
いつまで本持ってんねん…

くるりと窓に背を向けたら

「うおおおい!!」

音もなく財前君が立ってて心底驚いた。

「なんやねん、声掛けてや!」
「あ、すんません。もう時間なんでカウンター閉めましたわ」
「え、ああもうそんな時間か、財前君確か部活やっとったよな?先あがってや」
「あ、ええんすか?ほんなら失礼します」
「お疲れさまー」


ドアまで歩く途中、ちょうど図書室の真ん中あたりで財前くんは振り返る。


「先輩」

急いで手に持った図書を戻しながら、なんやねんと後輩を見る。

「テニスコート、よう見えますね。そこ」


くそ生意気なチャラついた外見の後輩に本を投げつけそうになった私に、図書委員の資格はなさそうだ。


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