詐欺師の手口
部活を少し早めに切り上げ、アパートに帰った。
ゆっくり歩けばあまり痛くない。
今日は少し筋トレして、後輩の練習にちょっとだけ口を出してみたり、マネージャーの仕事を手伝ってやった。
マネージャーはずっと、
まじ先輩どうしちゃったんですか?大丈夫ですか?頭ですか?頭やりましたか?先輩が優しいとかまじ気持ち悪いんすけど!!怖っきもっ
と失礼なことを言っていた。
俺が手伝ってやるなんてめちゃくちゃレアじゃぞ。感謝しやがれあのやろう。
お姉さんを助けて怪我をしたと言えば、レギュラーの連中からは、良くやった!と褒められた。
やぎゅーなんて「仁王君が女性を助けるという紳士的な行動をしたとはパートナーである私も鼻が高いです。ああ、あの仁王君が‥すみません、少々涙が」なんて大袈裟に感動していた。お前は誰だ。俺の親か。
ピンポーン
チャイムが鳴った。出ると隣のお姉さん。
部屋に招き入れて適当に座ってもらう。お茶を用意しようとしたらものすごい勢いで遠慮された。動けんわけじゃないのに。
俺も適当に座ると「はい、これ」と言って名刺を渡される。
『中谷聡美』彼女のフルネームと会社名。
「裏に仕事用のケータイとプライベートの番号書いといたから、なにか怪我の事で困ったことがあったら連絡してね」
「あとこれ‥」と言ってタッパーに入れられた手作りの惣菜のようなものをくれた。
「もしよかったら食べて。一人暮らしじゃ料理とか大変でしょう」
にこにこしながらお姉さんはそう言った。
ずいぶん親切じゃのう。
これはイケるかもしれん。
お礼を言いながら受け取り、そんなことを思った。
自分の女受けする容姿は自覚している。
年上のお姉さん方から声を掛けられることも多々ある。
そして今までの経験上、一人暮らしだと知って手作りの料理をくれる女はほぼ百パー俺の彼女になりたがる。
そのようなことから、このお姉さん俺に気があるのではないだろうか、との考えに至ったわけだ。
俺も綺麗なお姉さんとイロイロ仲良くしたい。だって中学生じゃし。
にやけるのを隠しながら愛想良く会話を続ける。
上手くいけば今日これからここでと言うのもあり得るぜよ。
「じゃあ、長居するのも悪いしそろそろ帰るね」
え、もう帰るんか。
「じゃあ、お大事にね」
そう言ってにこやかに帰って行く彼女を玄関で見送る。扉が閉まってから鍵を閉め、部屋に戻ってもらった名刺を見る。
携帯の番号だけでアドレスは書いてない。
そう言えば俺の連絡先は聞かれとらんし、向こうからは連絡が入ることはない。
あれー、脈ありならもっとグイグイくるもんじゃけど。
もらったタッパーを開けてみる。
こうゆうのの定番と言えば、家庭的アピールなんだろうが肉じゃがとか。まあ俺野菜嫌いじゃからいつも肉だけ食うんじゃけど。
でもお姉さんが持ってきたのは、
灰色の塊‥
え?なんじゃこれ。
‥‥胡麻豆腐?胡麻豆腐ってご家庭で作れるもんなんか?
あと豚肉の生姜焼きとコロッケと野菜の和えたやつ。種類多いな。
ちょっと手で生姜焼きを摘む。
おお、旨い。
腹が減ってたのもあり、箸を持ってきてそのまま夕飯にしようとする。
‥‥‥白い飯が食いたい。
うちには炊飯器も米もない。
少し考えてから携帯にさっきもらった番号を打ち込み発信ボタンを押す。
あまり食に感心がない俺が、もっと食いたいと思った。
美人で、気が利いて、料理上手
さてどうやって落とそうか。
「あ、お姉さん?仁王じゃけど。さっきはどうも。ところで米炊いてある?
今から貰いに行ってもええかのう?」
(テニス以外でこんなにワクワクしたのは、)
(久しぶりやのぉ。)
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