紳士ですね、お姉さん



昨日階段から降ってきたお姉さんを助けた。




と言えば聞こえは良いが、正確には下敷きにされた。




いや、あそこで俺がおらんかったらあのお姉さん、そうとうな怪我をしとっただろう。
運が悪けりゃ死ぬこともありえる。




避けなくて良かったナリ‥




もしあそこで俺がヒョイと避けとったら‥

かなり目覚めが悪かっただろう。






昨夜、お姉さんの部屋で湿布貼ってもらって、自分の部屋に送ってもらってから(隣じゃから良いと言ったんに、聞かなかった)幸村に電話で、怪我したから明日部活に遅れる旨を伝えたら

「‥ふーん。まあ、お大事にね」

とありがたいお言葉を頂いた。






昨日お姉さんは朝9時に迎えに来ると言っとった。もうすぐかーと思っとったらちょうどチャイムが鳴る。


玄関に行き鍵を外し、ドアを開けると綺麗なお姉さん。




綺麗なお姉さんは好きですか?



なんていうCMがあったけど、声を大にして言いたい。好きに決まっとるわ、と。

むしろ嫌いな奴なんておるんか?十代の男子なんて下心しかないわけで。



正直この機会にあわよくば、なんて思うことはごくごく自然かつ当然の感情じゃろう。






朝の挨拶やら足を気遣う言葉やらをかけられ、曖昧に返事をしていると、お姉さんは玄関に置いてあった俺の荷物をさり気なく持った。


「それじゃ、行こっか」


にっこり笑ってそう言ったお姉さんに少しみとれた。




鍵を掛けて、階段を降りるとタクシーが止まっていた。


近付くとドアが開き、俺を先に乗せてくれた。お姉さんも反対側のドアに回り、乗り込んだ。


あらかじめ行き先を告げてあったのだろう。タクシーはすぐに走り出す。





駅前にある整形外科の前でタクシーは止まる。俺が降りるのを手伝ってくれ、病院の中に入り、お姉さんは受付をしに行った。





流れるようなエスコート。
紳士か。


やぎゅーみたいじゃのう。
ふとダブルスのペアの顔を思い出す。






そこそこ病院は混んでいたが、すぐに診察の順番になった。





朝一番で、お姉さんが順番を取っておいてくれていたらしい。

気配りクイーンか。








全治二週間。
軽い捻挫じゃった。

バンドで固定された足首は、動かすと鈍く痛む。


足に負担を掛けないような軽い筋トレはOK、それ以外の練習は基本的に休め、無理は絶対にするな、との事だった。






お姉さんが支払いを済ませてくれ、(自分で払うといったが有無をいわさず却下された)
病院を出るとまたタクシーが待っていた。


いつ呼んだんじゃろうか。


学校まで送ってくれるらしい。



タクシーはゆっくりと走り出した。








「二週間も部活ごめんね、本当に‥」



「いや、もう引退しとるし高校入るまで大会もないし大丈夫じゃ」



「私、顧問の先生に事情説明するね?」



「いや、それも本当大丈夫‥うちの部活顧問おっておらんようなもんじゃし」



「そうなの?」



俺顧問の名前知らんし。
顧問なんかよりも部長と副部長の方がよっぽど恐ろしい。ああ今は″元″部長と″元″副部長じゃったのう。







しばらくして学校に着いた。校門の前でタクシーは停車する。勢いよくドアが開き、降りようとするとすでに降りていたお姉さんが手を貸してくれた。







(なんていうか本当に)

(紳士なお姉さんじゃのう)




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