これが始まり
私と雅治君が出会ったのは今から一年前。
就職して一年目の冬。
私は少々浮かれていた。
大変だけどやりがいのある仕事。
人間関係も良く雰囲気の良い職場にもすっかり馴染み、一人で任される仕事も増えた。今日なんて尊敬する上司に褒められた。
幸せだ‥
就職してから今まで、早く会社の役に立ちたい。そんな思いでプライベートを多少犠牲にしても仕事を最優先に頑張ってきた。
失敗したこともあったけど、同じ失敗は二度と繰り返さないと心に誓い、今のところそれは守られている。
《優秀だし、向上心がある。助かるよ。》そう言ってくれた上司は普段厳しいが仕事が素晴らしく出来る人で。
褒め言葉をあんまり安売りしない人だ。
心地よい疲労感と高揚した気持ちで、ふわふわとした足取りでアパートの階段を昇る。
ちょうど真ん中に差し掛かったあたりで
踏み外した。
あ、やば、と思った瞬間に浮遊感。
走馬灯、見えました。
死を覚悟したのと、下から
「ぅおわあああっ!!!?」
と声がしたのは多分同時。
死ぬどころか無傷だったんだ。
下敷いてしまった銀髪の高校生のおげで。
「ごめんなさい!そして本当にありがとうございました!!」
私をかばい、足をくじいてしまった彼を私の部屋で手当てしながら謝罪する。
「いや‥そんな何回も謝って貰わんでも‥お姉さんに怪我がなくて良かったし」
そう言って笑う彼はちょっとびっくりするほど整った顔立ち。
おお、イケメンくんだ‥
そしてなんと最近引っ越してきたお隣さんだった。部屋に招き入れるときに「あ、俺ん部屋隣」と言われて判明した。
本人はあんまり痛くないと言うが、少し足を引きずって歩いていたし、腫れている。
折れてはいないだろうけど痛そうだ。
髪の毛とか制服を着崩している感じから若干チャラチャラした印象を受けるけど、大きめのラケットケースを持っている事から考えておそらく運動部なんだろう。
(モテそう‥)
「明日は土曜日だけど、学校ある?朝病院行こう?」
「学校は休みじゃけど部活ある。そんなに酷い怪我とちゃうし病院行かんでも平気じゃと思う」
「いや、運動してるなら尚更行った方が良いと思うの。私のせいで怪我させちゃってこんなこと言うの申し訳ないんだけど、明日、一緒に病院行こう?」
お願いしますと頭を下げれば、しぶしぶ、といった形だが納得してくれた。
良かった。
「そういえば、何年生?」
「三年じゃ」
「高三かー、大人っぽいねえ。制服着てなかったら大学生に間違えてたと思うよ」
「いや、中三。15さい。」
「はい?」
(イケメン男子中学生に助けられました)
(これが出会い。)
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