Mar. あおげばとおとし



3月某日


「ねえ!私もう仕事行くけど、ちゃんと遅れないで行きなよ?サボっちゃ駄目だからね?」

聡美ちゃんは慌ただしく出掛ける準備をしている。

「じゃあ、行ってくるね!夕飯いらないようだったらメールして!」

「ん。いってらっしゃい」

「それと雅治君、卒業おめでとう」


いってきます!そう言って出掛けた聡美ちゃんを見送る。


直前まで、キャー!ワイシャツぐちゃぐちゃじゃない!アイロン掛けたのないの?!あーもう!脱げっ!!なんて俺の世話を焼いてくれてたからいつもより遅い出発。

頑張れ、走れば間に合う。



今日は中等部の卒業式。

いつもの時間に起こされて聡美ちゃんの部屋で朝飯を食ってのんびりしていた。卒業生はいつもより登校が遅い。


いつもは見れない朝の情報番組を眺める。おお、お天気お姉さんが変わっとる‥



卒業か‥

自分の中学三年間を心の中で振り返る。
まず第一にテニス部との出会い。初めてやぎゅーとダブルスを組んだこと。新人戦。レギュラー入り。後輩が出来て、赤也をからかったり、マネージャーをからかったり。
真田に鉄拳くらったこと。幸村の入院に三年の夏の大会。決勝の、あの試合。


中学生活で思い出すのなんてテニス部のことばかりじゃ。

なんだ、俺はこんなにもテニスが、テニス部が好きじゃったんか。

そんなことを思ってしまったら妙に照れ臭くて。
慌てて人を馬鹿にしたようないつもの表情を作る。


卒業か。まあ高等部にそのまま持ち上がりじゃから大して変わらんが。


時計を見るともう出た方が良い時間。

揃えてあった荷物を持ち、玄関に向かう。

「行ってきまーす」

誰もいない部屋に向かってそう呟く。









***

長かった卒業式が終わった。クラスに戻り、担任の話しが終わったところで丸井に話しかけられる。

「仁王、クラス会でんの?」

「いや、俺は止めとく丸井は?」

「んだよ行かねーの?俺は出るぜ」

騒がしいのはあまり好きではない。クラスに仲の良い連中もいるが、どうせ高等部でも会えるし。

「ね、ねえ仁王君丸井君」

急に話しかけられて振り向くと、女子の集団。手にはデジカメ。

「写真、いいかな?」

廊下からも大勢の女子がこちらを伺っている。


あー、これ、帰れるんか?









「うわー!先輩達すごいっすね、それ」


テニスコートで練習していた赤也がこちらに気付いて声を掛けてくる。


あれから女子の、写真撮って下さい攻撃、そしてボタンの争奪戦に、告白‥今日だけで10回以上。途中で数えるのも面倒になるくらい。

ボタンは全て無くなり、両手にプレゼントやら花束やらを沢山抱える。

他のレギュラーメンバーも同じようなものだった。

あの真田が女子に囲まれてうろたえているのを見るのは楽しかったが。



「おお、赤也。ボタンやろーか?」

「は?いらないッスよ!つーか先輩全部とられちゃってるじゃないですか」

「いや、実は赤也の為に一個取って置いたんじ‥あ、マネージャー!ボタンやろーか?」

「ちょっと仁王先輩!俺にくれるんじゃないんスか!?」

「いやお前さんいらんてゆうから‥」





おい、切原。そろそろ‥なんて赤也がほかの部員に話しかけられる。

「あ、いけねっそうだった!それでは先輩方」

いつの間にか1・2年の部員が集まり、三年もそれに対面するように並ぶ。

「先輩!ご卒業、おめでとうございます!」

部長の赤也の言葉に他の部員達も繰り返す。

「俺ら、絶対全国優勝取り返しますんで!」

これ、荷物増やしちゃって悪いッスけど、なんて赤也にしては気の利いた事を言いながら、三年全員に花束を渡す。

あ、真田が泣きそうじゃ。うける。

チューリップの花束。聡美ちゃん喜ぶかのぉ



その後、真田と赤也の熱い包容があり、何気にいたギャラリーの女子達が悲鳴をあげて写真を取っていたり、感動して涙目になる部員がいたりした。









これで俺の中学生活も終い。

早くテニスがしたい。

まあ春休みびっしり練習で埋まっとるが。

あと一年したら赤也も入ってくる。このメンバーでまたテニスが出来るのが何よりも、嬉しい。絶対に口には出さないが。







(さ、早く帰って聡美ちゃんに旨い飯作ってもらお)

prev next

 しおり 目次へ戻る
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -