おねえさんとにおうくん



寒いから今日の夕飯は暖かいものにしよう。

ありがたいことに実家から旬の野菜が沢山送られてある。

なら豚汁…ポトフ…

和か洋か

どちらかというと洋風な気分だったのと冷蔵庫に豚肉がないのを思い出し、ジャガイモの皮を剥き始める。
ポトフにしよう。美味しいし、暖かいし、そしてなにより簡単だし。豚肉なくて良かった!



野菜の下拵えを終え、鍋に火をかける。
あ、ウインナー入れなきゃ。忘れてた…



まだ若いあの子はメニューに肉が入ってないと少し拗ねる。



忘れていたらきっと、口を尖らせジトッとした目で見つめてきただろう。



前に、私はお肉なんて週に一回ほんの少しで充分だけどな。なんて言ったらボソッと
「歳じゃ‥」
と言われたからお玉の持つほうのところで殴ってやったっけ。
ああ思い出したらイライラしてきた。




鍋の中が煮立ってきたから弱火にする。

コトコトという音とコンソメの良い香りがしてきた。



もう一品何にしようか‥


面倒だから適当に卵を焼こう。オムレツ…スクランブルエッグ…



うん。スクランブルエッグだな。楽だし。
ベーコン刻んだのとチーズでも入れてやれば奴も満足するだろう。




ガチャリと鍵の開く音がして、うおー寒かったナリーって声がした。


「おかえり」

「ん。ただいま。飯なに?」

「ポトフと卵焼いたやつ。もうすぐ出来るからご飯よそってチンして」

「わかったぜよ」

「室内に入ったらマフラー取りなさい」

「へいへい」

「返事は一回」

「……へーい」

「伸ばさない!」

「‥‥‥ピヨ」





鳴かれた…

少し口うるさかったかな。

そのうちウザいとか言われちゃうかな。

悲しいな。

いや、お姉さんは君の事を思って注意するんだよ。


ちょっとだけ気にしてチラッと彼を伺えば、それでも機嫌良さそうにご飯を盛っているから大丈夫かな。






テレビを見ながら食卓を囲む。

今日部活がどうだったーとか部活後自主練やったぜよ俺えらいーとか

今日も仕事つかれたーとか後輩に旅行のお土産もらったよーとか

ゆっくりご飯を食べながらお互いに今日あったことを話す。基本的にお互いテンションは高くないが、会話は途切れない。一人じゃない食事は

楽しいし、美味しい。







◇◇◇




「あ、こら蕪も食べなさい」

ポトフに入っとった蕪をさりげなくよけていたら怒られた。

「蕪とか嫌いじゃ…」

「好き嫌いしないの。ほら、これあげるから」

そういって自分の皿に入っていたウインナーを俺の皿に入れてくれる。



…あれこの人も好き嫌いしてないか?


聡美ちゃんはびっくりするぐらい肉を食べない。別にベジタリアンとかではないらしいが。嫌いじゃないけど胃がもたれるらしい。

前に、歳じゃなと言ったらお玉の持つほうでわき腹をぐりぐりされた。軽く泣くほど痛かった。


聡美ちゃんとご飯を食べるようになってから、今までの自分からしたら驚くほど野菜を食べれるようになった。(いや、食べさせられたといった方が正しいか)

玉ねぎとか茄子とかカボチャとか。旨いと思うようになった。


それでも、蕪とピーマンとゴーヤと冬瓜はまだ食えん。


聡美ちゃんの方を見ると、微笑んでいる。残したら承知しねーぞと目が語りかけている。


しぶしぶ蕪を口に入れる。うげぇ不味い‥
なんで蕪ってこんなに微妙な味なんじゃ。
謎じゃ。



えらいえらいなんて言って目を細める聡美ちゃんはあきらかに子供扱いしている。少しムッとするような、でも自然と甘えられるこのポジションは嫌いじゃない。



まあ、まだまだ俺は子供じゃけど。




高校一年。こないだ16歳になったばかり。



聡美ちゃんは‥‥




「あれ?聡美ちゃん年いくつじゃったっけ?」



「ピチピチの23歳ですけどもー」



「おお、あと七年で三十路か」



あ、舌打ちされた。クソガキって言われた。こわやこわや









同じアパートのお隣さん。



聡美ちゃんの部屋で夕飯食って、風呂入って、テレビ見たりゴロゴロして、俺は自分の部屋に帰って、別々に寝て、朝は起こしに来てくれたり起こしに行ったり。

そんな関係。








(もっと違う関係でも、俺は、いいけど。)

(でもそれはきっと彼女は望んでない)

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