Apr. 手先器用男



「ただいまー」


「おお、おかえりんしゃい」


今日は雅治君の方が早かった。


「すぐご飯にするからテーブル綺麗にしといてー」


「おん。あ、聡美ちゃん宅急便が届いてたぜよ」


ああ、あれか。

雅治君が受け取ってくれたダンボールを見てすぐにわかった。

最近通販で購入した、ジェルネイルセット。







今日のご飯はロールキャベツ。春キャベツが美味しい時期だから。ちなみに私はキャベツのみ。


「聡美ちゃん、届いた荷物、なんだったん?」


「通販で買ったジェルネイルセットだよ」


「ジェルネイルって?」


普通のネイルより大分長持ちするネイルでね、色の付いたジェル状のやつを筆で爪に塗って、専用のランプで乾かすの。


食べながら説明をする。

「いつもはサロンでやってたんだけど、お金かかるし時間勿体無いから自分でやってみようかと思ってね」


「ふーん。なあ、やるとこ見とってもええ?」


「いいよ」







食後、後片付けを済ませ、早速ネイルに取り掛かる。

入ってた説明書を熟読する。‥よし完璧に理解した。イケる!と思い、まず甘皮の処理から始める。



あれ?


おかしいな‥




いつもサロンでやってもらってるように、とやってみるがなかなか上手く出来ない。



「痛っ!!」


金属製のへらで思い切り指の肉を擦ってしまった。


「‥聡美ちゃんもしかして不器用?」

「‥そうかも」


涙目で答える。私、これ苦手かも。

雅治君がなんだかそわそわしている。

「ちょっと貸してみんしゃい」


そう言ってへらを奪うと私の手をとり、丁寧に爪の甘皮を削っていく。


上手い‥私よりずっと。


あっという間に甘皮の処理を終え、説明書を読む。
次はヤスリで爪の形を整える。


「長さと形、こんなもんでええ?」

「‥あ、大丈夫です」


物凄い手際の良さだ‥

そして爪の表面を磨いて、


「よし、これで下準備完了じゃろ?」

「完了です。ありがとうございます‥」


これはちょっと悔しい。


次は大丈夫。筆でジェルを塗る作業。


まずは下地‥




あ、あれ?はみ出る‥爪からはみ出る‥


「聡美ちゃん」

「‥‥‥」

「聡美ちゃん」

「‥‥‥お願いしても、いい?」









◇◇◇

聡美ちゃんの手を取り、下地らしきものを付けた筆で爪をなぞる。

聡美ちゃんの手は小さくてスベスベしとる。


前は全く触らせてくれんかったのに。
あれか。下心があったからか。


今年の冬、出逢ったころのことを思い出して苦笑する。
あのころは阿呆じゃった‥







なんか白い丸っこい中が空洞のランプとかいうやつに手を入れてもらい、下地を乾かす。

30秒。

この隙にもう片方の手に取り掛かる。
もう片方の下地を乾かしている間に色の付いたジェルを取り出す。
要領ええな、俺。


「どっちにするんじゃ?」


薄いピンクとベージュ。聡美ちゃんの爪にいつも付いてるのは大体この二色のどっちか。


「うーん、雅治君決めて」


「じゃあこっち」


ベージュにする。こっちの方がなんか色っぽくて好きだ。大人の女って感じで。




適量を筆に付けて丁寧に爪を埋めていく。
うわ、俺上手いな。



「女は大変じゃのぉ」

そういやうちの姉貴も頻繁にネイルサロンとかいう所に通ってた。

「そうだね。でも楽しいもんだよ。お洒落するの」

仕事で外に行くことも多いからね。爪綺麗にしとくのは身だしなみみたいなものだから、と教えてくれた。


「俺、爪長くてごてごてしたもん付けとる女は好きくなかったけど聡美ちゃんくらいのは好きじゃ」

ちなみに姉貴はごてごてさせとった。

「ふふ、ありがとう」

聡美ちゃんはそう言って綺麗に笑った。







「よし、完成じゃ」

あれから色付きのやつが固まってから更に上から仕上げの透明のやつを塗って、完全に固まってからローションみたいので爪を拭き取った。


全部で一時間くらいかかった。



「うわぁーありがとう!!上手!!プロみたいだよ雅治君!」

「どういたしまして。結構楽しかったナリ」

「ね、またやってもらってもいい?」

「おん、任せんしゃい。これどれくらい持つんじゃ?」

「三週間くらいかな」




三週間に一回、堂々と彼女の手に触れる。
安いもんじゃ。
え?下心?ないない。マジで。











(ねえ、雅治君!こんどはグラデーションやってみよっか!その次はフレンチね!)

(‥‥‥‥‥)

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