鉄壁のお姉さん



「あれ、仁王、最近太った?」





休み時間に前の席のやつにそんな失礼なことを言われた。



「‥お前さんにだけは言われたくないのぉブンちゃんや」



前の席の赤い髪の男はまだ二時間目の休みだと言うのに菓子パンをもっしゃもっしゃと食っていた。あ、もう食い終わった。



「ああクソ、たりねー!おーい誰か食いもんくれよぃ!!」



クラス中に大声で呼び掛ける。



すると女子数人がしょーがないなー、なんて言いながら丸井の机にお菓子やらを置いていく。手作りらしきものもある。

もはや日課となったこの光景を不思議に思う奴はうちのクラスにはいない。



「おう、どーもな!」なんて、食い物をくれる女子用に用意された取って置きの笑顔を見せる。

手作りのをよこした女子は頬を赤らめて嬉しそうにしとる。ああ、こいつ丸井に気があるんか。




可愛いと特だよな!なんて自分で言ってのけるこいつは、この必殺の笑顔を、母性本能をくすぐるスマイルなんだぜ!と前に言っておった。俺は母性なんてもの持ち合わせていないからさっぱりわからんが。




母性本能って言うのは厄介なものらしく、面倒を見てあげたい!と思ったら最後。なかなか見捨てる事が出来んらしい。

現にうちのクラスの女子の大半は三年の三学期の今じゃもう、丸井へあげる為の食いもんを持ってるのが当たり前みたいになっとる。





「ブンちゃんや、知らない人に菓子貰っても着いてったらいかんよ」



「はあ?お前見くびるんじゃねえよ!」



「着いてかないで菓子貰うに決まってんだろぃ!」




阿呆じゃ。そんな俺らのやりとりを聞いた女子達は微笑ましそうにクスクスと笑っとる。



あれか、母性本能っちゅー奴は阿呆な子ほど可愛いとか思うんじゃろか。



休み時間が終わりのチャイムが鳴る。俺らと喋れて嬉しかったのか、女子達はそれぞれ充実した表情で席に戻っていき、教師が教室に入ってくる。


「で、お前太っただろぃ?」


小声で後ろを向きながらさっきの話の続きを始める。ちなみにまだ口んなかに食い物が入っとるらしくモゴモゴしとる。授業中じゃぞこいつ‥


「まぁ、最近夜ちゃんとしたもん食っとるからのぉ」


「へえ。一人暮らしだろ?自炊始めたのか?」


「まさか。隣のお姉さんが作ってくれる」


「‥‥‥へーえ」


ニヤニヤと悪い顔になる。この顔は絶対に可愛くはない。さっきの女子に見せてやりたい。


「なんだよー、階段で庇ったって人だろぃ?芽生えちゃった?もうヤった?」


「そうあせりなさんな、普通に飯食わせて貰っとるだけじゃよ」


「なんだよ惚れられたんじゃねーの?」


つまんねーの、と言い前を向いた。








あせっているのは俺の方だ。
飯を食わせて貰いにお姉さんの部屋に通ってもう一週間。
チャンスをうかがってきたが一切甘い雰囲気にならん。



割と本気をだして頑張っとるんに。
顔近づけて見つめてみたり、耳元で喋ってみたり。こないださり気なくお姉さんの腰に手を回そうとしたら、ペシっと手を叩かれ

「ほら、子供は早く帰って寝なさいな」

と余裕の笑みで言われた。





一切触らせて貰えてない。ガード堅すぎ。

これは本格的に相手にされとらんか?
自信なくすわ‥






いや、今日こそは

俺に落ちん女なぞいない、そんな自意識過剰なこと割と本気で思っとっる俺は絶対にお姉さんをものにすると心の中で誓う。


詐欺師の名にかけて!










(まぁ見ときんしゃい。)

(「なぁー仁王ー、なんかくれよぃ」)

(「さっき一杯もらっとったでしょーが!」)







◇◇◇
すみません。語尾に「ぃ」を付ければ丸井君になると思ってました。本当にごめんなさいでした。

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