Magic Green!!!本編 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -
06.

誘拐犯捕獲作戦が3日後に迫った12月21日。
事務所には、スティーブン、ザップ、レオナルド+ソニック、そしてアユ。彼女はなにやら真剣に魔法の本を読んでいる。ザップはいつも通りぐうたら。レオナルドはソニックに好物のバナナを与えて、ぶつぶつと独り言を呟くように会話している。スティーブンはデスクワークの真っ最中だ。

「……あれ」
「? どうかしましたか、スティーブンさん」

スティーブンがなにやらデスクの周辺を見回し、首をかしげているのに真っ先に気付いたレオナルドが、彼の方に顔を向けて尋ねた。

「いや……おかしいな、僕のスマホ見なかったか?」

いや、見てねぇっすけど……そう言いながら、レオはソニックの頭の上にぽん、と手を載せた。その瞬間ソニックが飛び上がり、本にかじりついているアユの元に向かった。

「う、わっ!? わ、ソニック!? ひゃ……あっはは! 何も〜どうしたの?」

目に見えないスピードでアユの顔の前に現れたソニックが、じゃれるようにアユの首や顎にくっついた。くすぐったさに笑いながら首をひねるアユを一瞬確認して、レオナルドはスティーブンにとある提案をする。

「車の中に置いてきたんじゃないっすか? 俺、ココで探しときますから下に降りて見てきたらどーです?」
「ああ……まぁ、そうだな」

おかしいな……と頭をかきながら、スティーブンは事務所の扉を開けて下に降りていった。ソニックと戯れるアユをちらっと見て、ふっと笑ったのをレオナルドは見逃さなかったが、それは今は関係ない。

レオはん〜っと伸びをして、アユの首にひっついているソニックを呼んだ。

「トイレトイレ〜っと……」

そう言いながら扉に向かいつつ、おもむろにポケットからスティーブンのスマホを取り出し、彼のデスクの上に置いた。アユはソニックが離れてすぐ本の方に目を戻したから、それには気付いていない。ガチャ、とわざとらしく音を立てて、レオナルドはソニックと共に外に出ていった。

事務所には、ザップとアユのみ。

「……おいチビ」
「なんですか?」
「っあ〜なんだったかあれ、日本で流行りの……」
「あぁ……壁ドンですか?愛人さんに試してみました?」
「それがなー……こう、やり方がよく分からねぇっての?」

んあ"〜と先程のレオナルドと同じ様に伸びをして、ザップがソファーから勢いよく立ち上がった。と、同時にデスクに置かれたスティーブンのスマホに「入口解除済  1名入」の通知が入った。

(戻って来た)

それをちらりと確認して、ザップはどかどかどかと大股でアユの元まで歩いた。

「え!? ちょ、ザップさん!? なになになに…」

アユは本を閉じて近寄ってくるザップから後ずさって距離をとろうとする。が、ザップは無理やり壁際までアユを追い詰めて、手を壁について正規の壁ドンをしてみせた。中々の身長差のため、少女漫画よろしくの展開になっている。見た目は。

「あ、これですこれ」
「……おめーよぉ……」

普段クズクズと罵ってくるレオナルドでさえ、ザップのルックスを美点だと言うのに。この鈍感チビは、ドキッともキュンともしないのか……揺るがぬはずのプライドを軽く崩されてしまった気がする。いつまでその体制でいるのかと訝しげな表情でザップを見上げてくるアユをぐったりした顔で見やってから、彼は背後に意識を集中させてみた……案の定だ。正面にザップがいるせいでアユの方からは見えていないらしいが、扉の方から発せられるおぞましいほどの冷気を察知したザップは、命の危機を感じながらも次の行動に移した。壁によりかかる形で肘をつけ、アユとの距離をより密着させてから、左手で彼女の顎を持ち上げた。

「ひゃ」

アユが目をつぶって小さく声を出した。このアングル、スティーブンさんだったら鼻血モンだな〜。そのまま左手でアユの顎あたりにひっついたものをペラリと剥がし、背後には聞こえないくらいの声量で呟いた。

「顎にシール付いてんぞ、お前」

その直後、バン! と扉が開かれ、顔面蒼白のスティーブンが事務所に入ってきた。

「おっ、番頭ぉ〜! おはやいおけーりで!」

パッと手を離し、両手をもみながらデレデレと媚びへつらうような顔でスティーブンをお出迎えしたザップを見て、アユはぽかんとしている。

「……?」
「はぁーすっきりしたぁ」

ガチャ、とまたわざとらしく音を立てて扉を開け戻って来たレオとソニックは、ザップが手をもんだ状態で硬直している……凍死していないのをちらと確認し小さく安堵の溜息をついて、スティーブンに声をかけた。

「スマホ、床に落ちてたんで拾ってそこに置いときましたよ」
「……」

スティーブンはその日……事務所から出るまで、いつぞやのメデューサの時のように殺気を放し続けていた。
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