Magic Green!!!本編 | ナノ
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05.

スティーブン・A・スターフェイズは、本当の恋に気付かない系男子だった。そんなジャンルがあっていいのか、と言われるやもしれないが、このジャンルは主にスティーブンにのみ適用されるものである。恐らく。
しかしある日、アユのことが好きなんだと気付いてしまった。これは大変。今までありとあらゆる女性を手玉に取りころころと転がして利用していた男前が、年端のいかない女の子にあたふたしているなどとは、誰にも気付かれるわけにはいかない(K.Kをのぞく)。だからスティーブンは、君が好きだと叫びたい気持ちを必死で押し殺してこの数ヶ月を乗り切っていた。アユが日本にいる間は、メンバーの中の誰よりも彼女と触れ合った自信はあった。ただし、画面を挟んで。
恋というのは恐ろしいものだ。テレビ越しでは何ともなくいつも通りに会話できていたスティーブンだったが、アユ本人が目の前に現れた途端に、熱発したように顔を赤くしてしまうようになった。動悸なんかもする。もうそんな年齢か……と自分の老いた体に切なさを覚えたが、いやいやそうじゃなくてこれが恋というものなんだと改めて気付き、それからはよりいっそう苦しくなった。
パッと見た所、顔が赤いだけでアユとも普通に会話しているのだが。アタックとかアピールとか、そういうことができない。スティーブンは本当の恋に気付かない系男子から、本命には奥手系男子へと変貌を遂げた。
そしてさらに彼は今、アユに好意を抱いているということはK.K以外には知られていないものだと思い込んでいる。全くこの男、恋愛に関しては真性お馬鹿さんである。

「レオ、なんかやっぱ……俺、大勝負するっぽい」
「は!? あそこまでしたのにまだスティーブンさん何もしてないんすか!?」

レオナルドは呆れたように声を上げた。ここはダイアンズダイナー。ザップとレオナルドはハンバーガーとコーク片手に作戦会議を行っていた。

「俺が予想した通りだったぜ……ありゃ超奥手だ、わかりにくいけどな」
「うっわ〜……スティーブンさんまじか〜……そしてあんなにあからさまなのに、当事者2人が色々抜けすぎてて気付いてないっていうのが……」

誘拐犯に関するミーティングの直後、アユはスティーブンのデスクに行って、ドラッグストアで買ってきた冷えピタを彼に渡していた。スティーブンはありがとうとは言っていたが、顔が相当……赤かった。アユはスティーブンが風邪をひいているのだと思い込んでいるから、それを見て一層心配するし。ザップとレオナルドは、その様子をげんなりと眺めていたのだ。

「番頭があそこまで赤面すんのもかなーり珍しい……ってか初めて見たけどな、もう慣れてきちまった」
「ザップさん今までも結構頑張ったっすよね、なのにさらに、自らの命を投げ打ってまで……」

手がかかりすぎる上司と、後輩。このクズをここまで苦しめる輩はそうはいないだろう。ザップはコークをすすりながら、死んだような目をして呟いた。

「ここまで来ちまったっつーことはさ、やるっきゃねぇのよ……恋愛上級者ザップ様の名が泣くっての」

元々ザップが”パートナー”に名乗りを上げたのは、スティーブンが彼にライバル心を燃やすことによって、アユのことが好きなんだと自覚させるためだった。これはK.Kがスティーブンを飲みに連れていったことにより、なんとか成功。あとはどのタイミングで”パートナー”候補から降りるかを考えるだけになっている。
アユに何歳までが恋愛対象かと聞いたのだって、それの答えに自信を付けたスティーブンがアタックを開始するのを目論んでのことだった。しかし数日経った今でも、スティーブンの方はアクションを起こさない。ザップはがっかりした。なんで……なんでだ番頭。そんなに俺を殺したいのか、そうか……

「い、嫌だ……やっぱ俺、死にたくねぇ……レオナルド・陰毛・ウォッチ、俺の代わりに大勝負に出ろ」
「陰毛をミドルネームみたいに挟むな! ……ってはぁ!? これはザップさんにしか出来ないですって! アンタの唯一の美点を使ってスティーブンさんをヤキモキさせる予定じゃねぇの!?」

唯一の美点ってなんだよコラ! とザップは叫んでレオの頭をわじゃわじゃとさせた。

「やーめーろー! とりあえず何だけっけ……”壁ドン”と”顎クイ”でしょうが! 俺がやったってスティーブンさん1ミリも嫉妬しねぇわ! あの人絶対勝てるもん!俺になら!」
「あ”ー! 陰毛が冷たいっ! 俺が嫉妬に狂ったスターフェイズさんに凍らされてタコ足の餌にされたって何とも思わねーんだぁ〜」
「流石にあの人もそこまではしねーよ! 酒に酔った様に泣くなっつーの! ……とにかく! 作戦は俺が考えますから、ザップさんは持ち前の美貌(笑)を活かしてそれを決行してくださいよ」

うぐっ……とテーブルに突っ伏したザップが顔を上げ、ジトっとレオナルドを睨んでから、残りのハンバーガーを口の中に押し込んだ。

「……もういい加減見てらんねーもんな」
「もどかしいったらないっすからね」

俺達って、超仲間思いじゃね?

レオナルドとザップは、キリッとした顔で覚悟を決め、そこからさらに細かい打ち合わせに入っていった。
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