Magic Green!!!本編 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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06.

アユがHLに戻ってくるまで、予定ではあと半月。

「だーかーらー! なんで5秒で何とかなると思っちゃうわけ!? アンタほんっと学習しないな!」
「うるっせぇよ5秒ありゃサブウェイ十分間に合うだろうがよ! 昼飯食えなかったのお前のせいだかんなこのクソ陰毛!」

廊下をこだまする喚き声が近付いてきたのに気付き、スティーブンは口の端に笑みを浮かべたまま扉の前に立って二人を出迎えた。

「あッちょ! いでッ! SS先輩ひっでぇ……! ちょえーっす!」
「ちぃーすレオのせいで遅刻しましたぁーっと」
「社長出勤か?」

取っ組み合いながら扉を開けた2人の前に、絶対零度の笑みを振り撒く上司。毎度の事ながら目も笑っていない…筈なのだが、今日のスティーブンは絶対零度の割にはやけに明るい笑顔である。

「あっ……えと、すいません……?」
「サーセンっした……?」

2人共謝罪の後に"?"が続く。ここ最近のスティーブンは、目を合わせれば石……氷にされるレベル(もしかして:メデューサ)で殺気立っていた。理由はもちろん、アユの不在と”パートナー争奪戦”にあるのだが……それが今日は、まるで晴れ上がった冬の空のように清々しい顔をしているのだ。怖いのには変わりはないが。

「ミーティングはもう始まってるぞ。座れ」
「う……うぃっす」

2人が遅刻した時は、必ず床に正座をすることになっている。スティーブンの機嫌が悪い時は、この床がスケートリンクの様に凍りつくのだが、そんな様子もない。
その後も普段通りに会議は進み、毎度の如く斗流兄弟が罵り合い少年がそれに巻き込まれ、チェインがそれに加担し……と騒がしい口喧嘩や取っ組み合いの応酬が続いたが、スティーブンはその顔から笑みを外すことはなかった。

「お、おい……今日のスターフェイズさん、なんか……やっべぇぞ」
「えっ、ザップさんが"パートナー"譲ったんだと思ってましたよ……!?」
「そうじゃねーから怖いんだろーが……!」

そのうち言い合い掴み合いも終わり、ザップとレオナルドは額をくっつけてひそひそと話し合いを始めた。今日のスティーブンはおかしい。あ、いや待てよ…もしや。

「アユの、出席日数……案外早くたまったんじゃないすかね……?」
「そうなんだよ、実は」

そう予想した直後、ソファーに座る2人の頭上からスティーブンの声が降ってきて、レオは思い切り叫びそうになった。開いた口から声が出ないように、ザップが無理やり手で押さえ込んだからよかったが。

「ま、マジっすか、番頭……」
「マジもマジ。明後日には帰ってこれるらしい」

そりゃそんな顔もするわな……と、2人はげっそりして、もう一度幸せそうなスティーブンを見た。アユが戻ってきて、彼の異変に気付くのも時間の問題だろう。

「そこでだ、ザップ」

一人がけのソファーに腰を下ろしたスティーブンが、顔をひきつらせたまま硬直したザップを笑みを崩さないまま見つめて、低い声を出した。

「”パートナー”を彼女に決めてもらうっていうのは、どうかと思ってな。いや勿論……お前が俺に譲ってくれるんなら、それに越したことはないんだが」

あ、はい……イイトオモイマス。

ザップは気合いで口を開けて、何とか聞こえるぐらいの声で賛同した。
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