Magic Green!!!本編 | ナノ
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09.

アンタって、アユっちのこと大好きでしょ!

「……は?」

事務所で1回、その後無理やり連れていかれたバーで3回、K.Kから同じことを言われた。

「まっっったく自覚してないその感じがくっそ腹立つのよ!」

カン!とカラになったグラスをテーブルに叩きつけ、K.Kはそれはそれは恐ろしい形相で僕を睨んだ。

「ちょっと待てK.K、僕が? いつから? 誰のことを好きだって?」
「とぼけんじゃないわよ! アンタが! おそらく会った次の日からずっと! アユっちのことを! 大好きだって言ってんの!」

キーッ! なんで私が代弁しなきゃならないの! ムカつく! そう叫びながら、K.Kが運ばれてきたウォッカをあけようとしたので、無理やり止める。

「待てって! それを飲んだら君、完全に何言ってるかわかんなくなるから!」
「……わかったわ。じゃあゆっっくり確実に、アユっちのことだーい大大大好きなんだってことを、自覚させてあげる」

それからK.Kは、約1時間、ひとりで話し続けた。僕がアユを目で追って口元を緩ませているのを嫌悪感丸出しの目で見ていたこと、仕事が上手くいかなくなってからあからさまにアユを避ける僕を嫌悪感丸出しの目で見ていたこと、和解してから反動的にアユに優しくなった僕を嫌悪感丸出しの目で見ていたこと……

「ひどすぎるよ……K.K。常にそんな目で……そしてそれを本人に言っちゃうのか……僕のメンタルがもたない」
「で? 自覚したわけ?」
「あ〜……んん……いや……」
「くどいわね! 色男の名が泣くわよ、スカーフェイス」
「えええ……」

アユの顔を思い浮かべてみる。次に、彼女の事が好きなのだと仮定して、今までの自分の彼女に対する振る舞いをおさらい。
あー……だめだ。これは相当まずい。
次は、彼女のいい所を挙げてみる。それは、それは……死ぬほどあり過ぎて、むしろ俺が死にたい。
まず、彼女は可愛い。あの小さいふわふわした感じがたまらない。もちろん、笑った顔も、怒った顔も可愛い。あの感情は愛玩動物に向けるものではなかったのだと気付いた。口元は緩むべくして緩んだ。コーヒーは零れるべくして零れたのだ。
次。彼女は優しい。誰にでも、あのクズにさえ、優しい。あれだけあからさまに彼女を避けた俺にさえ、優しい。
そして次。彼女は強い。才能もさることながら、心が強い。自分でものを考えて、人にそれを伝えることが出来る。若いのに聡明で、真面目だ。そこがいい。
そしてさらに。彼女は未知数だ。つい目で追いたくなるような可愛さ。誰からも好かれる性格。天賦の才能。あの少女がもう少し大人になったら、どうなる?恐らく、取り合い奪い合い殺し合いが起きるだろう。そうなる前に、そうなる前に……

………
「めっちゃ好きじゃないか!!」

バン! とカウンターテーブルを叩いて、俺は悶絶した。今までの蛮行を悔い改めたい。許してくれ、クラウス。俺は! 好きな女の子の前で! 2ヶ月のうちのほとんどの間!

『怖い”上司”』をやっていたんだ…


「何よ、やっと? 遅すぎんのよ! ティーンかっての!」
「……ティーンじゃ悪いか」
「え……何よ、アンタまさか」

声のトーンを落とし、テーブルに突っ伏した俺を見下ろして、K.Kは顔をひきつらせた。
恋をしたことないとか……言うんじゃないでしょうね?

伊達男、冷血漢、腹黒男……色男。
長身、引き締まった筋肉、スラリと長い脚、完璧に整った顔のパーツ、赤銅色の優しげな瞳、左頬に傷、全身にタトゥー、漂う色気。

この超フルスペックで、恋を知らない。俺がウッ、と涙ぐんだ瞬間、K.Kの腹筋が崩壊した。
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