Magic Green!!!本編 | ナノ
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第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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06.

「まずはこれ。アユ、何だか分かるな?」
「えっ……と、そのカプセルの色は……”魔減剤”?」

ご名答、とハインは微笑んで、濃い紫と、真紅で半分ずつ塗り分けられている小さなカプセルの説明を始めた。

「これは、ロロカリアンの魔力を最小限にまで抑える薬です。悪用されないために、殆ど外で出回ることはありませんし、現存している数量も少ない。これを飲むと、どんなロロカリアンでも2日は一般人とほぼ変わらないくらいのスペックになってしまいます」

使われるのは、身内の誰かがその魔力を犯罪目的で使おうとした場合や、何らかの理由で魔法が暴発した場合に限られる。カプセルタイプと、液体として注射するタイプとがあるらしい。

「僕は長いこと、この”魔減剤”に焦点を当てて、研究を続けていました。そして……そしてついに、5年という歳月を経て、試薬が完成したんです!」

ハインはそう言うと、自身のベストの胸ポケットから、高そうな絹で包まれた小瓶を取り出した。中には事務所の温室を思わせるような、優しい緑色の液体が入っている。

「”魔減剤”を改良して、新たに作られた……一時的に”グルズヘリムの魔力だけ”を削ぐ、薬です」

彼はこの試薬を作るのに、5年かかったと言った。レオナルドが頭の中で計算した限りでは、その頃彼は、ジュニアハイスクールにいるはず……天才か! いや、天才だ。

「でもまだ完璧じゃない……いくつかの欠点がある。っと、その前に詳しい特徴を……」

ハァ、と不満げに小瓶の中を揺らし、ハインは説明を続ける。

「この薬……”MG試薬”っていう名前なんだけど。普通のロロカリアンが摂取しても、何の変化も見られない。僕自身で確かめたからね。けど、おそらくグルズヘリムが摂取したら……”最弱の結界”以外は、使う事が出来なくなってしまう」
「そりゃーお前、短所どうこうじゃねーよ! グルズヘリムにとっちゃ、”魔減剤”と何ら変わりない薬じゃねーか」

普通だったら確実に話を聞いていなさそうなクズが、珍しく話を理解した上で口を挟んだ。ハインも、そうなんです、と申し訳なさそうな顔をする。

「でもそれは、最初の1日だけ。その後に副作用が現れる……その1日を超えれば、”普通のロロカリアンと変わらずに、牙狩りの前でも魔法が使える”んです。これが副作用。ただし、1日だけ」
「うーん、つまり……1日目は一般人同然になってしまうけど、2日目は”短所を克服した状態になる”、そして3日目には、元のグルズヘリムに戻ってるってことか?」

そう! そうです! とスティーブンに向かって何度も頷いたハインは、段々ノッてきたらしく、ますます饒舌になった。

「最初はそうなんですが、それを続けていくうちに、1日無力状態は変わらないまま、その後に短所克服状態が、2日、3日……と増えていくんです。予想では」

彼の予想とやらをどこまで信じていいのかはわからないが、ここまで革新的な研究結果を叩き出したロロカリアンはそうそういないだろう。問題は、実験の方にある。

「まさか、それをアユっちに飲ませようってことな訳? ハインっち」

K.Kが顔をひきつらせてハインに問うた。ハインはうーん、と少し首をひねらせて、アユの方に向き直った。

「飲む?」
「飲むよ、グルズヘリムの為になるなら」

彼女はそういう性格だ。自分がどうこうというのは関係無く、広く等しく、誰かの為に動く。いつか命だって投げ打ってしまいそうで、そんな危なっかしいところも、スティーブンをどぎまぎさせる所以になっているのだろう。

「ま、待てアユ。それ、本当に大丈夫な物なのか? 1日だけじゃなくて、永遠に魔力を失ってしまう可能性は? 第一その、”短所克服期間”中は、守護魔導も通常通り使えるのか? 分からないことが多すぎる」
「そう言われるだろうと思いまして……データを持ってきました」

ハインは、スティーブンのPCをピッと指差し、手首をくるりと回した。その瞬間、ピロリン、とPCが数件のメールを受信した。
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