Magic Green!!!本編 | ナノ
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05.

ハインはそれはそれは、いい奴だった。まず、レオナルドと同い年だという事に一番爆笑したのは他でもないザップ。お前、やっぱ少年(笑)じゃねぇの! とゲラゲラ笑うクズを、レオナルドは容赦なく視野混交の刑に処した。アユ程ではないが真面目で、ジョークなんかも言えてしまう。それに賢くて、立ち振る舞いを見ていればわかるが、戦闘能力も随分高そうだ。ゲルダ婆の子孫は皆こうなのだろうかとスティーブンは思ったが、彼女の孫はハインとアユの2人だけなのだという。

「アユ、ローブほつれてる」
「あっ、本当だ!」

ハインになだめられてすっかり元気になったアユは、ギルベルトのいれた紅茶と、ツェッドが大道芸帰りに買ってきたドーナツでお茶しながら、ハインと昔話に花咲かせている。それを興味深そうに聞くのは、クラウスとレオナルドだ。

「どーれ、兄ちゃんが直してやろう……っはは、いつぞやの誰かの結婚式の時、君が転んでドレスの裾を破ったの、おぼえてる?」
「おぼえてるおぼえてる! あの時、お兄ちゃんが魔法ですっごく上手に縫ってくれたのよね、みんな感心してた。小さいのにすごい! ってね」

ハインが人差し指をひょい、と動かし、スマホをタップするようにトントン、と空気を叩くと、アユのほつれていたローブが少しはためき、しゅるしゅると元通りになっていった。

「うお、すっげー! これも魔法なわけ? ハイン」
「そうだよ。ってレオナルド、君の服も随分ボロボロじゃないか」

同い年ということもあって、ここの2人は一気に仲良くなった。アユのローブを直してすぐ、今度は両手を使って手繰るような仕草を見せ、ハインはレオナルドに向かってふっ、と息を吹きかけた。すると彼のダボダボの服はみるみるうちに綺麗になっていき、小さな穴や汚れなんかも、さっぱりなくなってしまった。

「うぉ、え!?」
「ちょっとは綺麗になったかな?」
「いやいやいや、ちょっとどころじゃねぇー! すっげー!」

驚くレオナルドにクスクス笑いながら、ハインは「新鮮な反応だなぁ」と呟いた。

「ハインリヒ、私はロロークについて未だに理解しきれていない事が多い。君の時間がある時に、是非勉強したいのだが」
「勿論です、ミスタ・クラウス。我々が、ライブラとシャミアニードの架け橋になりましょう」

改めて固い握手をし、2人はまっすぐ互いを見た。確かにこのハインリヒは、クラウスほど堅物クラスの実直さは見られないにしても、リーダーとしての素質を兼ね備えているように思える。次世代を担う指導者。アユがそう呼んだのも、頷ける。

「お兄ちゃんはすっごく強いんですよ。今はHL支部とベルリン本部を行き来して、前線にも出てるのよね?お兄ちゃんの名前を知らないロロカリアンは、多分いないわ」
「そう褒められると照れるなぁ。でも僕はしばらくは、グルズヘリムの研究に没頭することに決めたんだ。出世どうこうじゃない……どんなに強くなっても、アユを救えないんじゃリーダー失格だからね」
「うむ、素晴らしい心意気だ、ハインリヒ」

クラウスも心から感心しているようだ。リーダー同士が信頼しあえる仲になるのなら、それはとてもいいことなのだろう。 スティーブンはデスクに腰掛けて、書類のビル群の隙間から、アユとハインリヒをじっと見つめていた。
何だ、何なんだ……これは。何か色々、ここ数日で奪われた気がする。アユ、僕と仲良くなったんじゃなかったのか? それなのに、あっさり帰国を決めてしまうし、シャミアニードの兄貴とは楽しそうにしているし。いや、ハインリヒは歳の近い親戚なのであって、仲が良いのは当たり前なのだが。
そこまで考えて、スティーブンはまだ誰も聞いていなかったことがあるな、と席を立ち、アユ達が腰掛けているソファーの前まで歩いた。

「ハインリヒ、君がつくりだしたっていう……”薬”と、”訓練”っていうのは、どんなものなんだ?」
「あっ、そうですよね、皆さんにもその説明をしなくては……」

ハインは立ち上がり、アユをソファーから立たせ、部屋の中心へエスコートした。それくらいなら俺もできるぞ、とスティーブンは思ったが、とりあえずその気持ちはそこら辺に投げ捨てておく。

「普通のロロカリアンと、グルズヘリムの違い……沢山ありますが、最も特徴的なのは、やはり”近くにいる人間、特に牙狩りの血を使って魔法作り出してしまう”……所謂、”グルズヘリムの短所”です」

そう言って、ハインリヒはグルズヘリムの説明を始めた。何が出来て、何が出来ないのか。どういう力を持っていて、どんな経緯で生まれたのか。そして彼らへの非難の歴史、研究の歴史を一通り語り終えた後に、本題である”薬と訓練”に、話はふれた。
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