Magic Green!!!本編 | ナノ
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04.

「どうも! ライブラの皆さん。僕、ハインリヒ・ディートリッヒと申します。アユの従兄弟に当たりますね。国籍はドイツ。シャミアニードの『グルズヘリムの短所を克服する団体』に所属しております。ちなみに、彼女の結界ならある程度のものは通り抜けられます!」

彼がライブラメンバーの前で自己紹介を行ったのは、それから約30分後、ザップとレオナルドが昼食から帰ってきた頃だった。

「え、ハインお兄ちゃん、まだ『グル短団』にいたの!?」

アユは驚きを隠せないといった様子で、ハインに詰め寄った。ザップは笑顔を絶やさない青年を見て、「胡散臭ぇ奴だ」とあからさまに嫌そうな顔をしている。

「当たり前じゃないか! こんな可愛い可愛い妹が、グルズヘリムであることに日々涙しながら辛い思いをしているっていうのに……この僕が君を救わないで、誰が救うんだ!」
「日々涙はしてないけど……あんな所にいたらお兄ちゃん、出世できるものもできなくなっちゃうよ!」

レオナルドはぎゃんぎゃん言い合う二人を見て、なるほど、似ていると感じていた。ハインの地毛は、素のアユとは少し違う質の黒髪。恐らく彼の方は4分の3がドイツ人で、単にゲルダ婆の血を濃く引いているから黒髪なのだろう。目元や笑った顔なんかも、ちょっと似ている。

「君のコンプレックスをなくすため、果ては全てのグルズヘリムを救うため……『グルズヘリムの短所を克服する団体』は、日々研究を続けているんだ。誰よりも君の幸せを願ってるのさ、僕は」

つまり彼は研究者なのであって、そういう類の人間で、追い詰められている者は大抵、常に殺気立っている。

「お兄ちゃんはロロカリアンの希望の星でしょう。天才指導者!」
「アユはグルズヘリムの希望の星じゃないか。天才救世主!」

ハインは赤い生地に紫の線が入ったローブを纏っている。スティーブンがついこの間、アユからシャミアニードの正装について教えてもらった時、確か彼女はこう言っていた。

『赤は戦闘員、紫は指揮をとる人で、その両方の色をローブに入れられるのは、おばあちゃんと……あと数名です』

つまりはそういうことだ。彼は研究者であると言ったが、それと同時にシャミアニード有数の精鋭でもあるのだろう。それにしても仲良さげに口論する2人を見ていると、何故だか急にそこから目をそらしたくなって、スティーブンは少し俯いた。

「私はクラウス・V・ラインヘルツ。ハインリヒ・ディートリッヒ……君がここへ訪れた理由を詳しく聞かせてもらえないだろうか」
「リーダーのお方ですね、ミスター。理由は至極簡単。僕はついに、グルズヘリムの短所を克服する方法を発見したのであります」

その言葉に誰よりも驚いたのは、勿論アユである。いや、メンバーは全員、びっくりしていたが。

「ええええ!! お兄ちゃん! それはっ……」
「君がここに滞在した2ヶ月。僕らは……アユは『グル短団』と呼んだね。君をみっちり追跡して、研究した」

ストーカーっぽいな! レオナルドは心の中でツッコミを入れた。

「まだ確証は無い……でも僕が作り出した”薬”を飲んで少し”訓練”すれば、ゆっくりだけど着実に、君は人前で魔法……果てはロロークも、使えるようになるよ」
「う、嘘……」

こんな事があっていいのだろうか。グルズヘリムがこの世に生まれてから数百年。彼らはずっと、劣等感と罪悪感とに苛まれ、周囲から疎まれ自分で自分を疎み、失意のうちにその生を終えてきた。そんなグルズヘリムをこの暗闇から救う? それを可能にするかもしれない人間が、2人揃って同じ世代に生を受けたなんて、こんな奇跡。

「嘘、嘘……きっと、うまくいかない」
「君は僕の才能を一番認めてくれる女の子じゃなかったかな、アユ。君が本当に短所を克服すれば、もう誰も、グルズヘリムのことを疎まない。強く誇り高い、そして守護魔導まで使える! そんなロロカリアンに、なれる」

アユは気付かぬうちに、泣いていた。彼女が本当に泣いているのを見るのは、ハイン以外、みなはじめてだった。声を上げずに涙を流し続けるアユに、何か声をかけようと口を開きかけたスティーブンだったが、それよりも前に、ハインがアユの肩に腕を回した。

「大丈夫。君と僕なら、きっとできる。いい加減信じようじゃないか。僕らの才能ってやつを」
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