Magic Green!!!本編 | ナノ
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03.

「10月から日本に帰って、卒業認定をもらえるまで出席日数がたまるのが12月の直前なんで……」

アユが通っていた日本の高校では、登校日数の4分の1を欠席すると、必然的に留年になってしまうらしい。1月からは大学受験の関係で学校に通わなくてもよくなるから、それまでの間ということになる。彼女は日本人の中でも真面目な方なのだろう、夏休みに入る前までは無遅刻無欠席だったらしく、この9月を全て休んだのと、12月からまた全て休むのとで、ちょうど2ヵ月分、つまり4分の1の欠席分が出来るのだ。だからどうしても、卒業するためには10月と11月の出席が必要なのだという。

「寂しくなるわね〜……アユっち! 絶対向こうからも連絡してよね!」
「おぅ、またジャパニーズ葛餅買ってこいよチビ」

まだ帰ってもいないのにお土産を頼むとは……アユはザップにはいはいと言っておいて、クラウスの方に向き直った。

「クラウスさん、本当に申し訳ありません。シャミアニード側の都合で私がここに入ってきたのに、今度は私の都合で勝手に出ていくことになってしまって……」
「しかし、勉学に励むのは学生のつとめでもある……アユ、向こうでしっかり勉強してくるといい。君が戻ってくる時は、また必ず歓迎しよう」
「……そう言っていただけると、嬉しいです」

それからのアユは、帰国に向けて”間接魔法陣”カーペットの作成に取り掛かったり、「外」でも安全に食べられるHLのお土産を探したり、部屋を片付けたりと、忙しい日々を送った。そして、いよいよ明日、出国する……という9月30日の昼過ぎ、シャミアニードからクラウスのPCへ、一通のメールが送られてきた。

『孫をそちらへ寄越す  アユに伝えるように        D      』

「む……?」

クラウスが首をかしげたその時、スティーブンのスマホに『入口解除済 1名入』の通知が届き、誰も何もわからぬまま、突然の来訪者が扉を開けるのを待つことになった。

「……確かにマダムからのメールだ。ここの入口を解除できるのは、ライブラの構成員ととマダムだけで……彼女がその方法を教える程の人間ってことか?」

スティーブンがクラウスのPCを眺めながら呟いたその時、バーン! と勢いよく扉が開かれ、黒髪をさらりと後ろで纏めた青年が、事務所に入ってきた。どこか殺気立っているような気もする彼は、クラウスとスティーブンから凝視されているにもかかわらず、きょろきょろと事務所内を見回して、見つけ出した一点に焦点をさだめ、つかつかつか、とアユの自室の扉へと向かった。

「!? 待て、そこは無理矢理開けられる所じゃ……」

アユの自室には、彼女のプライベートを守るためにしっかりと結界が張られている。以前ザップが力ずくで扉を開けようとして、全身に気絶するまで電流を流されるという、手痛い仕打ちを受けていた。
しかし、この黒髪の青年は、そんな事を知る由もなく、ガチャ、とドアノブを回した。あーあ、気絶だ。スティーブンはそう思ったのだが、その後何のことはなくキィ、と音を立てて扉が開き、部屋の中から「キャー!」と可愛らしい悲鳴が聞こえてきた。

「お、お、お、」

お兄ちゃん!?

「やーぁやぁやぁ、アユ・マクラノ! この僕になーんにも言わないでジャパンに帰っちゃうなんて、ひどくないかい?」

明るい声で、笑顔のままで。青年はアユをぎゅーっと抱きしめた。
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