07 Now→Winter
01.
9月もあと少しで終わる、というある日の朝。アユはティーカップを人数分トレーに乗せ、事務所への扉を開けた。
「おはようございます」
「あ、おはよーアユ」
給湯室から事務所が見える丸窓を覗き、そこにいるのが3人だということを確認して、あとは自分用に、合わせて4つ。2つはミルクを入れて、そのうちの1つはさらに砂糖も多めに追加、残りの2つはストレートで、片方はより濃いめ。ティーカップの柄もまちまちで、オレンジのマグカップの様なものもあれば、青い模様の入ったザ・ティーカップという感じのものもある。
「ミルクティー、いれたんですけど……飲みますか?」
「えっ、丁度甘いのが飲みたいと思ってたんだよな〜! ありがとう!」
今日のレオナルドは午前中出勤で、報告書が片付かない〜! と喚きながら朝早くから事務所にこもっている。アユは辺りを見回し、「チェインさーん」と名前を呼んだ。
「紅茶、飲みませんか? ストレートです」
するとレオナルドの頭の上に、ふわっと美しい人狼が降り立った。いででででで、と顔を歪めるレオの上に立ったまま、チェインはアユから紅茶を受け取った。
「ん、美味しい」
「よかった! 濃いめが好きですもんね、チェインさん。あとは……」
アユはくるりと振り返り、書類のビル群が立ち並ぶデスクに向かった。
「スティーブンさん、お疲れ様です。紅茶ですけど……」
「ああ、貰うよ。ありがとう、アユ」
スティーブンは昨日の夜、この事務所で徹夜した。彼が事務所で夜が明けるまで仕事しているのを見たことがなかったアユは、彼の体調を相当心配した。スティーブンの方は、この2ヶ月はどうにも気まずくて、アユが住み込んでいる事務所で徹夜をするのを憚っていただけで、それ以前は週に一度は事務所に泊まり込みで仕事をしていたし、この間にも仕事を家に持ち帰って普通に徹夜していたのだが。そういう気負いも必要無くなったから、またいつも通りここで徹夜しただけの話である。
「コーヒーばっかり飲んでたら、カフェイン中毒で倒れますよ。ミルクも入れましたから、これを飲んだら仮眠室で休んで下さいね」
「うーん……それはちょっと……」
「寝てください」
「……OK、そんなに怖い顔しないでくれよ」
2人はこんな会話をしながら、同じことを考えていた。
((やっぱり上司と部下っていうのは、こうでなくっちゃ……!))
ようやく大河を埋め立てることができた喜びをひしひしと感じながら、アユはソファーに戻り、腰掛けて自分用のストレートティーに口をつけた。
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