Magic Green!!!本編 | ナノ
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
10.

元々喧嘩をしていたとか悪口を言い合っていたとかではなかったから、改まって仲直りしようというのも違うし、そもそもこれ以上ギクシャクしたって、お互いにとって何の得にもならない。アユとスティーブンは、かなり長い間笑い続けていた。その後はごく普通に、そう……時計を買ったあの日のように、ぽんぽん言葉が飛び交って、お互い気恥ずかしい気持ちを上手く心の底に隠しながら、たわいない話を続けた。

「それでザップさんは、スティーブンさんの目の前で変顔し続けてたんですよ」
「へぇ……あいつは何回、僕に氷漬けにされれば気が済むんだろうな」
「本当ですよねー」

スティーブンの目は包帯だらけで見れないけれど、そっちの方が見えている時よりずっとよかった。お互い(特にアユ)、自分がどんな顔をしているかを気にしなくてよかったし、恐らく目を合わせていては話せないようなことも、話題に出すことが出来た。

「やっぱり痛いんですか? その……血凍道の靴って。針が付いてるんですよね?」
「まあ、最初はね。でももう慣れたよ……痛覚が麻痺してるっていうか」

そもそもこの2ヶ月の間に、仕事に関係ないことで聞いてみたいことはデスクの書類と同じくらいに増えていた。質問とそれへの答えの応酬が続く。

「そこにある花が、何て言ってるかわかったりするのか?」
「わかりますよ、クラウスさんがお花屋さんで買ってきたガーベラのアレンジメント…」

アユは少し黙って、花の声に耳を傾けた。アユが話したことのあるガーベラは皆優しくて、面食いだ。案の定『すてぃーぶんさん、かっこいい、すてき!』とどの花も歌うようにささやいていた。

「すてぃーぶんさん、かっこいい、すてき!」
「……え?」
「って、言ってますよ。面食いな花なんです。ガーベラって」

可愛いなぁと花びらを優しく触りながら、アユは笑った。スティーブンは一瞬だけ口を変に曲げて、すぐに元の凛々しい形に戻した。

「……ええと、アユ」
「? はい」
「その、まだ……礼を言ってなかった。君が僕の頭吹っ飛ぶのを防いでくれたのと、とびきりの演技をしてくれたおかげで、今回の作戦は成功したよ。ありがとう」

エドラッデ作戦以来、スティーブンはずっとこれが言いたかったのだ。アユ無しでは決して成し遂げられない作戦だった。さらに彼女は、不測の事態にも慌てず対応した。礼はいくら言っても足りないくらいだ。

「ど、どういたしまして……私からも、ありがとうございました。スティーブンさんがググを倒してくれたから、あの場所から脱出できました」

えへへ、と照れて笑うその声だけで、スティーブンの口は緩んだ。仕事をしている訳ではないから、盛大に緩ませてもらう。そしてついでに、ちょっとお願いをしてみる。

「お礼ついでに、頼みたいことがあるんだが」
「え、なんですか?」
「あー……その、」

1曲、歌ってほしいんだ。

静かに夕日が差し込む白い病室に、少女の透き通った声が小さく響き続けた。


「ザップさん! やりました! やっと関係改善!」
「へーへーそりゃーよかったこってな」
「よかったー! これで心置きなく日々を過ごせます!」
「へーへー」
「今なら何でも奢っちゃいますよって! 全てはザップさんのおかげですもんね!」
「ほーう」
「……? 何ですか、いらないんですか?」
「あー、まぁ……また別日な。俺今、腹減ってねぇ」
「めめめ、珍しい! じゃあレオさんツェッドさん、行きましょう!」
「ハァ!? ……あー腹減った! 行くか飯!」

To be continued…
prev next
top