Magic Green!!!本編 | ナノ
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07.

結果。作戦は成功。
エドラッデの取締役、つまり黒幕が”建物そのもの”だったことは想定外だったが、魔術師ググを早急に倒す事が出来た為、名も無き異界人百数名が建物の崩壊に巻き込まれただけで、何とか事は片付いた。

「魔術師を殺してしまったのはまずかったな。すまん」

今は、スティーブンの病室にメンバーが全員集まって先日の報告会の真っ最中だ。彼は両目をいつぞやのレオナルドのように包帯で覆っている。ルシアナ女史の手によってなんとか失明は免れたものの、5日間の入院を言い渡されてしまったスティーブンは、いささか不満そうであった。

「しかしスティーブン、君が魔術師を倒し幻影魔術が解けたことにより、私は4人の居場所を突きとめる事が出来たのだ」
「そうは言っても貴重な情報源を失ってしまった事には変わりない。ピンポイントに目だけやられたことは無かったからね」

つい、カッとなって。ツェッドとレオナルドは、申し訳なさそうに笑うスティーブンに(怖い……)という眼差しを向けていた。しかし彼がその視線に気付く事はない。それをいいことに、先程からザップが彼に向けて変顔を披露したり、日々の恨みを晴らすように中指をつき立てたりしている。

「にしても、今回はアユのお手柄っすね」
「なーに言ってんだよ陰毛! このチビのせいで俺らは文字どーり敵の懐の中に潜り込んじまったんだぞ?」
「それでもアユさんの演技がなければググを倒すことは出来ませんでした」

建物が黒幕であることに気が付かなかったのはショックだった。しかし褒められるとどうにも照れくさくて、アユは顔をピンクに染めて俯いた。

「アユっちのお嬢様演技! 見たかったわ〜」
「お、それで思い出したけどお前、何だったか……”新感覚魔法”? アレ本当に使えんのか?」

何だその斬新そうな魔法。お菓子か! レオナルドがすかさずツッコミ、ツェッドも呆れ顔だ。アユもプッと吹き出した。

「”真間隔魔法”ですか? できるわけないですよ〜」

ググも言っていたとおり、真間隔魔法は、魔法界では”神業”と呼ばれ伝説化している魔法である。自身の肉体には露ほどの魔力も宿さないままで、数メートル先の対象に魔法を使う事を言うのだが、どんな魔法使いも、魔法を発する”本体”として必ず何らかの力を内に秘めていなければ、外にそれを放出することは出来ない。いわば彼らは魔法の”伝達・増幅”を行っているだけであって、決して”無から有を作る”ことをしているのではないのだ。

「日本にいた頃、片っ端から資料をかき集めて独学で練習したことはあったんですけど……」

努力どうこうで全てうまくいくなら、アユはとっくの昔にグルズヘリムの短所を克服している。彼女が真間隔魔法に手をつけたのも、グルズヘリムとして、牙狩りに危害を与えることなくロロークを行使する為の1つの候補としてそれがあったという理由からだ。そして勿論、どれだけ挑戦しても一度も成功したことは無かった。

「僕はあの時、本当に使えるのだろうと思いましたよ」
「ホンットお前、最初は大根役者みたいな演技しか出来なかったくせによぉ」
「大根役者!? そんなこと思ってたんですかザップさん! あ! ていうかあの時! 私に緊張感持てってあれだけ言ってたくせに吹き出してましたよね!?」

本当の護衛役としてあるまじき失態ですよ! とアユが文句を言えば、うるせー俺は自分を偽るっていうことが出来ねぇ質なんだよヤダ超素直〜!! とザップが切り返しながら彼女の髪をぐしゃぐしゃにする。アユの”出張”にザップが付き合うようになってから、この二人の距離もだいぶ縮まっていた。

「アユっちに怪我が無くて良かったわねぇ〜ザップっち? 首と胴体が繋がってることに感謝すべきよね」
「ゲッ姐さん! その顔怖いって!!」

K.Kはクラウスと同じかそれ以上に今回の作戦に難色を示していた。アユが無傷で帰還したことを一番喜んだのも彼女だ。アユは今や、チェインと同じくK.Kの娘である。

「……っあー……痛……」
「! 痛むのかね、スティーブン」
「目だけとは言ってもスティーブンさん怪我人っすからね〜」

スティーブンは時折、包帯で巻かれた目の辺りを押さえて辛そうにしている。後少し内側か上の方を抉っていれば、脳に何らかの支障をきたすところだったらしい。

「報告も終わったし帰りましょう……その汚い手をアユの頭から離しなさいよクソモンキー」
「あ!? 今汚いっつったか雌犬よ!」

犬猿の仲とはまさにこの事。ザップは大抵の者にはつっかかって勝利するが、チェインにだけはどうしても勝てないようで、ぎりぎりと彼女に飛びかかるべきかどうかを迷っている。スティーブンは目以外健常なのだから、彼の病室でドタバタしようものなら一瞬にして氷像にされてしまうのは自明のことなのだが。

「スティーブン、君は最近、少し働きすぎていた。この数日を使って休むといい」
「……ああ、そうするよ。悪いクラウス」

かくして報告会は終了し、ぞろぞろとメンバーは室外に出ていった。アユは作戦以来、スティーブンとまともに話せていないことを気にかけながら、病室を後にした。
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