Magic Green!!!本編 | ナノ
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05.

それから4日後。アユはシャミアニードの正装である白いローブを纏い、ザップ、ツェッド、スティーブンは護衛役に相応しい黒いマントで全身を隠して異界人組織”エドラッデ”のVIP専用裏口前に来ていた。作戦内容を頭に叩き込み、”貴重なグルズヘリム”をであることを印象付けるためみっちり練習したアユは、緊張の色を浮かべながらググの出現を待った。
建物の中心部まで案内された後、そこで待っているエドラッデの取締役数名=黒幕とググを3人が速やかに処分して、1時間以内に建物を脱出する。
この間、アユはいかにも”神聖なお嬢様”といった雰囲気を醸し出して、ググ以外のエドラッデの異界人にも自分の存在感をしっかりアピールし続けなければならない。逆に護衛役の3人は極力影を薄くし、自分達が手練であることをなるべく悟られないようにする。
よし、上手くいくよきっと! 何度も打ち合わせを重ねたし、練習したおかげでお嬢様っぽい立ち振る舞いにも慣れた。アユ・マクラノの初! ライブラ構成員っぽい任務!やるしかない!

「お待ちしておりました、ミス・グルズヘリム」

突然ボウッと扉に明かりがともり、先日写真で確認した通りの異界人が現れた。

「どうぞ中へ。取締役がお待ちです」
「ええ、ありがとう。このガードマン達も一緒にいいかしら?」
「勿論でございます」

すました顔をして中に3人を入れ、アユはググに案内されるがままに長い廊下を歩いた。コンクリート打ちっぱなしの壁から、血こそ洗い流されて綺麗にしてあるつもりなのだろうが、夥しいほどの”呻き声”が聞こえてきて、アユは凛とした表情を崩さないまま少しだけ震えた。

「この街には本当にグルズヘリムが少ない。貴女の様な方がいらっしゃってくれて、嬉しい限りですな。奇跡にも近い」
「あら、そう。お力になれるのなら何よりだわ」

ぶ……と背後でザップが吹き出しかけたため、後で文句を言ってやろうと決めた。一行は幾つもの部屋を抜け、時には組織内の異界人と顔を合わせ、ついに最も大きく荘厳な扉の前にやってきた。

「この先に取締役がいらっしゃるのね?」
「はい……しかし護衛の御三方には、ここでお待ち頂きたい」
「それはどうしてかしら? この者達は有能で信頼おける私の部下よ」

3人を入れてくれないのなら、この話は無かったことにして頂戴。アユはもしもの為に用意されていた台詞をしっかり口にした。その瞬間。

「や”は”り”そ”う”か”」

濁った声が天井から降り注ぎ、今まで立っていたはずの床がぐにゃりと歪んだ。しまった、幻影魔術……! よろめいたアユをツェッドがすかさず支え、ザップとスティーブンももはや必要の無くなった黒マントを脱ぎ捨てて体勢を立て直す。

「チッ……バレてるんならしゃーねーな! 取締役はどこだ!?」
「この廊下一体、というか建物全部が黒幕です!」

轟音が渦巻く中アユが叫んだ。ググはふよふよと空中を漂いながらこちらを見物している。先ほどアユが聞き取った”呻き声”は、殺された生き物のものではなく、建物自体……ひいては黒幕そのものの声だったのだ。強力な幻影魔術によって何重にも書き換えられていたとはいえ、グルズヘリムであるのに何たる失態だろうか。建物への違和感は、一番に察知しておくべきだった。

「お前達の力は既に見切っている。本物のグルズヘリムを寄越したのは正解だったなぁ」

ケケケと笑うググを睨みつけ、歪みを増していく廊下に周囲を囲まれる形で、4人は追い詰められた。

「お前ごときに見切られるようなチンケなもんじゃねぇよ」
「アユさん、クラウスさんに連絡を。応援を頼んでください」
「いいや、その必要は無いな。この様子だと、おそらく外でも異変が起こってる。自らの存在が知れ渡ることよりも、グルズヘリムの捕獲を優先しているようだ」

いずれクラウスが突っ込んでくるだろう。そう口にして、スティーブンは靴を鳴らした。ザップとツェッドも、気を高めていく。アユは牙狩り3人にノイズを与えないため、意識を集中させて最弱の結界を解除し始めようとした……のだが、予想外の方向から鋭く高速の物体が飛来しているのを察知し、解除を中止して叫んだ。

「スティーブンさん! 右から!!」

直後、その存在に気付いたスティーブンが咄嗟に身構え物体を交わしたが、頭をえぐる予定だったらしい得体の知れない小さな何かは、鋭利な刃物を光らせて、スティーブンの両目をかすめた。
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