Magic Green!!!本編 | ナノ
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04.

「みんな、集まってくれ。”エドラッデ”の情報がようやく揃った」

あれから数日。最近のライブラはやけに忙しく、アユが一人で留守番をすることも多くなっていた。原因は今ちょうどスティーブンが提示した”エドラッデ”と呼ばれる異界人組織にあった。

「乗り込むのは4日後。だいぶ特殊な作戦になるから、心してかかってくれ。チェイン! 報告を頼む」

「特殊な作戦」という時に、ちらとスティーブンがアユの方を見た気がして、彼女は何だろうかと資料に目を走らせた。指名を受けたチェインがてきぱきと説明を始める。

「異界人組織”エドラッデ”は、再構築以来表向きはHLに住む異界人を保護、指導する為の公共機関でしたが、裏では麻薬、臓器、人肉等をその手の異界人に密売、輸出し続けていました。現在は3年前ほどの影響力はありませんが、先日レオが発見した特殊術式ブローカーの出処と人狼局側が調査していた食人事件の黒幕が”エドラッデ”にあることが判明。ついこの前組織に新たに入ったとされるある異界人が事を動かした直接の要因になった模様です」

ぺらぺらと資料をめくりながら、アユはチェインの話を聞いていたが、5ページ目で手を止めて、思わずそこに書かれていた”作戦内容”を凝視した。

「こいつがそれだ。名前はググ・ベロドラージュス・ゴドヴネラ。パッと見は人型だが、相当の実力を持つ魔術師だそうだよ」

スティーブンによってぺたっとホワイトボードに張られたその写真には、ググナントカという異界人が写っていた。垂れすぎている目に、ぷっくりと膨らんだたらこ唇。中年のおじさんのような背格好で、こういう福の神様が日本にいたな……とアユは思った。いやしかしそれより、作戦内容が!

「こいつは今、ちょっとした悩みに苛まれているようでね……自分の術式がまるで効かない敵に遭遇してしまったらしい」
「ま、まさか……」

レオナルドは顔をひきつらせてアユの方を見た。アユは本当に? これをやるの? と青ざめた顔で資料から目を離せずに硬直している。

「そのまさか……エギンウイルスだよ。せっかく組織内での株が上がりかけてたってのに、ウイルスのせいで積み上げた信頼と実績を失うかもしれない彼は死に物狂いでグルズヘリムを探していてな。水面下で組織内部の彼と連絡を取って、うちのグルズヘリムを一瞬だけで貸してやるという契約をした所だよ」
「はあ!?」

呆れたように声を上げたのはK.Kである。

「ちょっとスカーフェイス! 馬鹿じゃないの!? アユっちは非戦闘員なのよ!?」
「それは十分承知しているさ、K.K。何も彼女一人で組織に乗り込ませるわけじゃない。この作戦の真髄はアユの”護衛役”にあるんだよ」

つまり作戦内容はこうだ。自身の上がりかけた信頼を保つ為、グルズヘリムを探しているググナントカの元に、自分達がライブラである事は隠し、”悪人組織”からとしてグルズヘリムのアユをエドラッデに連れていく。しかしアユはHLでは貴重な存在だから、護衛を数人つけるという条件を提示した。この護衛にライブラ有数の精鋭を配置し、組織内に潜入したと同時に静かに素早く頭を潰して、異界人組織”エドラッデ”の息の根を止めようというのだ。

「ググは異界でも有名な魔術師で、グルズヘリムかそうじゃないかはすぐに見極められるらしい。グルズヘリムだと偽ってレオナルド辺りを当てようかとも思ったんだが……」
「辺りって……スッと恐ろしい事言いましたね。ちなみに護衛は誰なんですか?」
「……ああ、」

レオナルドは顔をひきつらせたまま、スティーブンに素朴な疑問をなげかけた。アユ本人をエドラッデに連れていくよりは、自分が行ったほうがまだマシかもしれない……なんてことも思ったが。

「ザップ、ツェッド……あとは僕。向こうが3人までという制限を設けてきたから」

まあ戦闘能力的にそういう人員配置になるだろうとは予測していた。予測はしていたけど……

(初任務、しかもスティーブンさんがいる)

気まずい!!

アユは心の中で転げ回った。大きな溝が出来るような喧嘩をした訳ではないのに、二人の間にはそれはそれは浅くて幅の広い大河が流れているような感じで。この2ヶ月、2ヶ月も! まともに会話していないのだから、そうなるのは至極当然のことなのだけど。

「クラウスはちょっと目立ちすぎるしね。でも組織内にBBがいる可能性もないとは言えないから、外で少年と待機してもらう事にしたんだ。K.Kには前々から単独任務が入っていたし」

チッと舌打ちしたK.Kが一番近くにいたザップに鬼のような形相でつっかかった。

「ザップっち、いーい? アユっちにちょぉっとでも怪我させたら……どうなるか分かってるわよねぇ?」
「ねねね姐さん怖い! 怖いから!」
「K.Kさん、安心してください。よほどのことが無い限り、彼女には危害は与えさせません」

そう断言するツェッドを頼もしく思ったアユだったが、プライベートな不安の比重の方が圧倒的に大きい。エドラッデは衰退途中であるとは言え、かなりの大型組織。そんな中にたった4人(しかも一人は非戦闘員)で乗り込むというのは、護衛役の3人がこれだけ信頼おける先輩や上司でなかったら、相当の暴挙である。

「……アユ、私はこの作戦にはあまり賛同できなかったのだが、最終的には君の判断に任せようということになった」
「えっ、やります」

クラウスが凄いオーラを放ちながらアユの答えを待とうとしていたが、彼女の方はなにか思案する訳でもなく、あっさり作戦参加を表明した。

「決めんのはっや! アユ、下手したら君の命がかかってる作戦だからね!?」
「レオ君、だからそんなことにはなりませんって」

レオナルドはアユの爽やかすぎる返事に驚きを隠せないといった感じで彼女に迫った。が、アユ本人は何を悩むわけでもなく、つらつらと参加理由を話し始めた。

「確かに命がかかっているかもしれませんが、この街ではいつもどこでもそうですし。私にしか出来ない任務なら、足を引っ張らないように精一杯やらせてもらいます。この為に皆さんが苦労して情報を集めたんですからね! それに、3人がどれだけ凄いのかも分かっていますから、逆に安心できますよ」

気まずさとかは別にして! と心の中で思いながら、アユはとりあえずふにゃっと笑っておいた。スティーブンがゴホゴホと苦しそうにしている。どうやら、コーヒーでむせたらしかった。
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