Magic Green!!!本編 | ナノ
×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -
04.

「つまりこの新入りお嬢は、そのちょぉおおおお厄介な”グルズヘリム”って訳だな?」

あー! くそ迷惑な話だぜ! と唇を尖らせるクズの鳩尾を憎しみを込めて殴り(楽々かわされたが)、レオナルドはしょんぼりするアユにへらりと笑いかけた。

「気にすることないよ、この人いつも誰に対してもこうだから」

あの数分後には血の気の多いザップは綺麗さっぱり回復し、レオとアユの大荷物を持ちあってずっと愚痴垂れていた。

「いえ、悪いのは私ですし……」
「そーだよこいつがわりーよ、この俺様がせっかく助けにいってやろうと……あり?」

両手で抱えられた紙袋の山からにょき、と顔を出してザップは眉をひそめる。3人はいつの間にか駐車場にまでやって来ていた。

ランブレッタが、ない。

「うぉおおおおおい!! ねぇぞ!! どこにも!!!」

俺の愛単車ぁぁぁ! と悲痛な声を上げるザップと対照的に、レオナルドは冷静に口を開いた。

「いや盗難っすよこれ、鍵かけてないっしょアンタ」

馬鹿だろ……と呆れ顔で言うレオナルドは、本日二度目であるが「仕方ない目を使うか」と呟いた。不思議そうに見つめるアユに、説明は後で、と笑ってじっくり探索をはじめる。

「オーラ残ってますんで〜っと……あ!」

神々の義眼が捉えたのは、なんと先ほどアユの紙袋をひったくろうとした男であった。やべ、この人今日厄日かも。と思いながらも盗難後のオーラを追うと、以外と近い所で信号待ちしているらしかった。あー、かも、じゃなくて厄日だわ。

「ザップさん、いますよ! あの交差点で信号待ちしてます、さっきの紙袋の男です!」
「あ!? 元はと言えば全てあいつのせいだな! 追うぞ陰毛! 新入りお嬢!」
「ギャッ! 荷物全部持たせるんじゃねーよSS先輩!」

うっせ! と声を張り上げて全速力で交差点に向かう先輩の後を、レオナルドとアユはもたもた追いかけるハメになった。はぁーなんであの人っていつもこう傍若無人なんだ……と愚痴をこぼすレオナルドを見つめ、アユはふふふと笑った。

「?」
「……あ、いえ、すみません」
「なんかこっちこそごめん。面倒な先輩だけど、根はいい人だから」
「ええ、わかります」

アユは赤いトランクを引いて、レオナルドは紙袋を抱えて関門付近の交差点へとのたのた向かう。ザップはもう到着したらしく、なにやら当の男の胸ぐらを掴んで色々喚いているようだ。

「その……”グルズヘリム”だからとか、そういうの気にしなくていいと思うよ。俺よかよっぽど君の方が戦闘力高いだろうし」
「そう言ってくださるのはありがたいんですけど、正直不安ではあります……」

そう言って寂しげに笑う少女には、やはりこれから彼女が住むことになるこのクソッたれな街は厳しすぎるんじゃなかろうかとレオナルドは思った。

グルズヘリムは、対BB兵器と化した人間には脅威にもなる厄介な存在である。ロロカリアンの中でも特に稀な能力というか、強烈な短所のくじを引いてしまった彼らは、魔力=ロロークを使う際に、周囲にロロカリアン以外の牙狩りの人間がいれば、その血を無意識に魔力と変換させてしまう。つまり、ザップをはじめとしたライブラ構成員の様な"対BB用に自身の血液を使う者"のそばでロロークを使おうものなら、彼等の血を吸いとってしまうのだ。たとえどんなに意識しても、訓練していても。
牙狩りの人間でなければ近くにいてもさほど危険ではないが、それでもグルズヘリムが意識して強力な魔法を繰り出す場合には貧血(だけで済めばいい。最悪失血死だって有り得る)を起こしてしまう可能性がある。
そんな超クセのあるグルズヘリム達は、その最悪な短所を代償に、他者の追随を許さない”守護魔導”の才能を持つ。彼らは牙狩りの前では決して魔法を使わない。そのかわり、あらゆる建物や意識の無いとされる生き物に寄り添って、最強の結界を張って世界に貢献しているのだ。

「私の魔法で、あんな風に人が体調を崩すのを見たのは、すごく久しぶりで、」

かなり動揺しました。あんまり消え入りそうな声でアユがそう言うから、なんともいたたまれなくなる。

「まあ……俺もだいぶ驚いたけど。ザップさんにはたまには痛い目見てもらわないと、っても思ってたし。あんな姿なかなか見れないから、ラッキー! なんてね」
「普段どれだけ酷いんですか、あの先輩……」

そうこうしているうちに交差点に辿り着き、その頃にはザップは血法の血でぐるぐる巻にされぐったりしている男の腹にでん!と座りこんでタバコをふかしていた。

「おせーよ。こいつどーすっかな」
「市警につきだします?」
「いーや、めんどくせぇ。俺は早く帰ってその新入りの土産を食いたい」
「え、これの中身が食べ物だって気付いてたんですか?」

さすがザップさん、ハナがきくな〜と紙袋の向こうでレオナルドが茶化したが、ザップはそれを無視して腰を上げて、怯える男にえらくドスの効いた声で二度とすんじゃねぇぞと凄んだ。さすがに命の危機を感じたらしい厄日の男性が一目散に逃げていくのを三人で見送る。

「さて、と」

取り戻したランブレッタと、レオ、新たに加わった少女アユ、トランク、紙袋の山を順番に見やって、ザップはうぉい !と叫んだ。

「どう考えても乗せて帰れねぇじゃねぇの!!」
「今更気づいたんすか。どちらにせよそれは押して帰るんすよ。ほら座席にこの紙袋乗せて!」

はーやっと両腕が自由になる、とレオナルドは紙袋をランブレッタの座席に下ろし、アユがありがとうございます、とお礼を言うのを軽く返す。結局歩きかよとまたしても愚痴垂れだしたクズはどうやら押す気もないようなので、かわりにランブレッタのハンドルを握って歩き始めた。

「あの、ところでアユさん……」
「アユでいいですよ、私はレオさんって呼ばせてもらっても?」
「あ、はい、勿論。じゃあ……アユ。あの、ここに来る前に頼んでおいたアレ……」

PSQ3…とぼそりと呟いたレオナルドに、ああ! とアユは笑った。

「あれ、レオさんのリクエストだったんですね。日本で丁度先月に発売されたばかりの新しいハードですもんね……もちろん、買ってきましたよ」

新しい仲間のお願いですから! と言ってトントンと赤いトランクを叩いた。おそらくこの中に入っているのだろう。
ヨッッッシャァァァァァ!!! と心の中で盛大にガッツポーズして、レオナルドは歓喜にうち震え、思わず緩む表情筋を崩さぬ様に必死でこらえた。
PSQ3……レオナルドは大のゲーム愛好家だが、このハードが発売された時の衝撃は未だに忘れられない。高画質、高性能、形もシャープで、カラータイプも様々。どこまでもクールなゲーム機の頂点。そんなシリーズの新作ともなれば、生産国である日本まで何とかして買いに行きたいと思わない筈もなく。しかし、仮にもライブラの端くれとして日々奮闘している彼に、そんなことができる筈もなく……仕方ない、アレがHLに上陸するのは数ヶ月先になるだろうが、それまでバイトのシフトを詰めまくって、お金を貯めておく他はないと諦めかけていたその時、日本からの新入りの紹介を受けたのだ。彼女はメンバーに喜んでもらいたい一心で、一人ひとつずつ、何かリクエストを貰えれば、可能な限りそれをお土産として買ってくるとさえ申し出てくれた。

神だ。神様は僕を見放してはいなかった。

レオナルドは即PSQ3を申し込んだ。勿論、高すぎる為無理はしなくていいとメールで伝えておいたし、代金は遅かれ早かれ払うことにしている。喜びの余りランブレッタに乗り込んでどこかへ走り去りたい気もしたが、すんでのところで思いとどまる。

「いや、本当に嬉しいよハハハ! どうもありがとう、アユ」
「いいえ、私も早く皆さんにお会いしたいです」

レオナルドが、アユに一刻でも早く会いたかった理由はこれであった。そしてたった今、夢が現実として、この赤いトランクの中に存在していることが判明した。レオナルドは感激のあまり涙目になり、今日帰ったら早速徹夜で遊び尽くしてやるぞ、と心に決めたのだった。


「お! リンダ!」
「や〜んザップ! これからどぉ? 今なら安くしてあ・げ・る」
「あーじゃあちょっくら行こうかナ〜てことで陰毛、あとヨロシク!」
「あ”ーーー待てこのクズ先輩! 逃げ足はっや!」
「……恋人さんですか?」
「いや、ちがくて……あの人君が思ってる以上にクズだから……ホントにクズ。なんか色々……」
prev next
top