Magic Green!!!本編 | ナノ
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05.

事務所はしんとしていたが、誰もいないという訳ではなく、温室の扉の方に数人が集まって何かを観察していた。どうやら先程あがったK.Kと、クラウス、ギルベルト、チェインのようだ。

「……何してんすか姐さん」
「しーっ! ザップっち黙って! アユっちが歌ってんのよ!」

人差し指を口元で突き立てて喋るなのポーズをするK.K。なんだなんだと4人も温室への扉に取り付けられている窓から奥を覗き込んだ。
そこには生い茂る植物達の中心で、メンバーから背を向けた状態で何かを口ずさんでいるアユの姿があった。息をひそめ、耳を扉に押し当ててみると、彼女が小さな声で歌っていることに気付いた。

「どこかで聞いたことがありますね……」

懐かしい、そういった言葉がぴったりの旋律。アユの小さく開かれ動く口から、そのメロディーに歌詞が乗せられていることがわかる。優しい、それでいて泣きたくなるような、透き通った声が薄く響いている。

「うむ。ドヴォルザークの交響曲第9番”新世界より”、第2楽章の旋律だ」

クラシック好きのクラウスから曲名を聞いて、あああれか、とスティーブンも思い出す。誰しもが耳にしたことがあるだろう、名曲だ。どうやら日本語で歌っているようで、歌詞の内容までは掴めない。

「にしてもいい声してるわねぇ」

K.Kは目を閉じてアユの歌声に聞き入っている。

「アユさんは本当に多才ですね」
「あ?俺みたいな奴のことか?」
「ザップさんは黙っててください」

レオナルドにそう言われれば、大抵つっかかるのがザップという男であるが、今回ばかりは大人しく口を閉じた。それだけアユの歌には力があるということだろうか。
しばらくするとアユは一息ついて、小さな声で「ごめんね」と呟いた。

「歌うことしか、できなくて」

しかも下手だし……と言って力なく笑う少女の姿がどうにもいたたまれなくて、ドアを開けるか開けまいか迷っていたスティーブンを突き飛ばし、ドアを突き破る勢いでアユの元に走っていったのは、K.Kであった。

「何言ってんのよアユっち!! 最っ高によかったわよ!!」

アユの肩をガッとつかみ、力いっぱい抱きしめてキャーキャー叫ぶK.Kのせいで、他のメンバーは出遅れてしまい、何とも言えない顔をしている。全員にバッチリ聞かれていたことに気付いたアユは、ボッと顔を赤くして、声にならない声を出した。

「い、いや〜アユって歌もうまかったんだ! びっくりした!」
「〜〜〜っ! っ!」
「チビの癖にゼータクな才能だな! まぁ、俺様ほどではねぇけど」
「………! わ! わ!」
「うむ。とても素晴らしいひとときをありがとう、アユ」
「わー! わす…!」
「ぐっじょぶ!」

忘れてください!! お願いしますから!!
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