Magic Green!!!本編 | ナノ
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03.

ゴウ……ンと、遠くの方で爆発音が聞こえて、アユは目を覚ました。高度特殊型の結界を張り終え、残る力を振り絞ってソファーまで歩いた記憶はある。うーん……と伸びをして、壁にかけられている時計が15:52を指しているのを確認する。結界を張り始めて、きっかり2時間たっていた。

(1時間も気を失ってたのか……)

しんとしたままの事務所。どうやらまだ誰も帰ってきていないらしい。アユはゆっくり起き上がり、周囲をキョロキョロと見回し、大きなあくびを一つして、温室に向かった。

「こんにちは……」

ドアを開けてから、アユはびっくりした。いつもは上機嫌に歌いながら歓迎してくれる植物達が、今日は何故か暗い雰囲気を纏ってすすり泣いている。

「ど、どうしたの? 何かあったの?」

そこまで言って、アユはハッとする。日本にいた頃、同じような事があった。昼過ぎに外に出た直後、国を揺るがす災害が起こった。アユが住んでいた場所の被害は少なかったが、その数十分後にはアユの付近の植物という植物が嘆き悲しみ始めた。遠い地で生命を絶たれた多くの同胞たちを、悼んでいたのだ。

(どこかで、植物が沢山死んでいる)

おそらく、先程の爆音が聞こえた場所だろう。植物達は風もないのにカサカサと揺れ、何も出来ずただ沈んでいる。

「うん、わかるよ……悲しいね……」

アユは温室の植物達と共に、静かに悲しみを感じた。

ウタッテ……

「え?」

何処からともなく聞こえてきたその呼びかけに、思わず聞き返してしまった。

ウタッテ

ウタッテヨ、アユ……

「えええ……」

アユは、歌をほとんど歌ったことがない。日本にいた頃は、友達とカラオケに行く余裕なんてないくらいに修行に勤しんでいたし、好きなアーティストはいても、男性バンドかクラシック。アユは聞く専門の人間であって、自らすすんで歌う方ではないのだ。

「む、無理だよ。私、歌とかあんまり歌わないし……」

ウタッテ

ウタッテ……

いつの間にか温室中の植物達が、アユに歌を求めてきた。それはこの小さな、そして逞しい生き物たちが、それだけ傷付いているからだということは、彼女にもよくわかっていた。アユだって、辛い事があったら、彼らや建物に思い切り優しくしてもらっているのだから。

「……じゃあ……誰もいないし、一回だけだからね?」

アユは瞳を閉じ、小さな声でとある歌を口ずさみ始めた。
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