Magic Green!!!本編 | ナノ
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「#幼馴染」のBL小説を読む
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04.

スティーブンは苛々していた。

理由は山ほどあるが、一番の原因はアユである。別に彼女が叱られるようなことをした訳では無い。しかしアユが給湯室でソニックと朝食をとっている姿、壁に額をつけて何やら建物と会話している姿、結界を張るから出ていけとザップに口やかましく言う姿……どこをどう見ていても、口元が緩んでしまうのだ。アユは小さくてふわふわしていて、所謂愛玩動物のような存在でもある為、その程度のことは致し方ないし、それだけなら許せる。しかし、スティーブンは口元が緩むと同時に目を通していた資料にマグの中身をぶちまけてしまったり、段差の無いところでつまづいたり、上役への大事なメールに意味不明な文字列を書き込んだまま送信してしまったり、果てはエスメラルダ式血凍道をクズに向けて不用意に発動させてしまったり! ほとほといいことが無かった。愛玩動物もここまで来れば脅威である。スティーブンの不調はライブラを不安定なものにする。彼はそれ以降、原因の少女を極力視界に入れないように努力するようになった。

(大体あれがいけなかった)

彼女がHLへやってきた次の日、なんやかんやで2人で時計を買いに行くことになった道中の、アユのあの言葉とはにかんだ顔。それまで仕事で初めて相対する人間に優しいと思われる事が殆ど無かったことと、彼女がやけに頬を赤らめて恥ずかしそうにしていたことに、スティーブンの不調の全ての理由がつまっていた。今でさえも思い出してにやけそうになる自分を思い切り殴りたいぐらいだ。
しっかりしろスティーブン。何も何も、小さきものは全て可愛らしい。その程度の感情なら冷血漢と言われる俺にだってある。しかし! そんな愛玩動物如きに、仕事を邪魔されるわけにはいかない。
アユがやってきて半月。すっかりメンバーと仲良くなった彼女は、スティーブンにも変わらず接してくれていた。が、それが逆にスティーブンを苛々させて(頼むから近寄らないでくれという気持ちだ)、周囲にわからない程度に、しかしかなりあからさまに彼女を避け続けていた。あのふわふわと漂う少女をぼーっと見ていたい気もするが、何分仕事には変えられない。

「あの、スティーブンさん、何か買ってきましょうか? サブウェイとか……」

そして気を張って避けている時に限って、彼女は何のことやらというようにお使いの申し出をしてくる。お馬鹿さんか! と叫びたくなるのを堪えて、スティーブンは思い切って顔を上げ、アユと久しぶりに目を合わせてみた。

「……じゃあ」

フットロングターキーブレストウィートホースラディッシュソースホットペッパーオニオントマトピクルス多めレタスピーマンオリーブ少なめクリームタイプチーズアボガドダブルミートをトーストで

ランチトリオとアユがドタバタと出ていった後、さすがにやりすぎたかな。とスティーブンは頭をかいていた。しかし注文通りのものを買って来なくても怒りはしないが、これに懲りて自分にはもう関わらないでいてくれたらいいと思った。仕事。これはスティーブンの人生の中で人類の希望であるクラウスの次に大切なものである。
息をつく間もなく入ってきた新たな情報は、先程から爆音を響かせている方角でタンドリーチキンが暴れ回っている、というものだった。あいつらを外に出しといて正解だったな、と思いながらスティーブンはスマホを手に取った。
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